第三章 リベン珠
第8話 メタボになるよ:前編
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「う……ん」
そのくぐもった唸り声と共に、フライパンの上に乗せたバターのようにじわじわと意識が覚醒していく。
その朝の気だるくもどこか心地の良い感覚を噛み締めるのは勇美であった。
そして、意識がだんだんとはっきりとしていくと、ここが普段寝慣れた永遠亭の自室ではない事を悟っていく事となる。
「そうだったね、昨日は守矢神社に泊まったんだっけ……」
勇美はその事を実感していくと、むくむくと心に高揚感が滲み出してくるのだった。
それは、住み慣れた自分の家以外の所で目覚めた事により、外泊という新鮮な行為をしたのを味わう心躍る一時なのである。
この時間は非常に神聖なものであり、何人たりとも邪魔をしてはいけない宝物なのだ。
だが、今回はただのお泊まりではないのだ。その事を勇美は思い返し、半覚醒の意識のまま井戸のある外へと向かったのである。
そして、そこから桶で井戸水を汲み上げ、その水で顔を洗ったのだ。
瞬間、勇美に厳しくも背を押してくれるかのような、そんな刺激が彼女の顔から脳へと送り込まれていったのである。
「ふ〜、スッキリした〜☆」
刺激が収まれば、後に待っていたのは完全に覚醒した事による朝の爽やかさであった。これがあるから誰しも毎日朝を迎えられるというものなのだ。
覚醒ついでに辺りを見回せば、まだ陽は昇り切っておらず、遠くの地平線で頭を出している所であった。
そして、全貌をさらけ出していない事により辺りは青に微かにオレンジ色が掛かった幻想的な光景となっているのだ。
それが早起きした時に味わえる自然の芸術といえる産物であろう。勇美はその光景に立ち会えた事に密かに心の中で感謝する。
しかし、今はその喜びは程々にしなければいけないだろう。
何故なら、勇美はここまで遊びでやって来た訳ではないのだから。確かにこの今の瞬間は喜ばしいのではあるが、彼女にはやらねばならない事があるのだ。
それには、まずはこの旅に同行してくれたパートナーに意識を向けなければならないだろう。
「鈴仙さんは今どうしているかな……」
「あ、おはよう勇美さん」
勇美が独りごちようとしていた瞬間を見計らったかのように、そのお目当ての人物から声が掛かったのである。
「あ、鈴仙さん。噂をすればですね。おはようございます」
「勇美さん、あなたも早く目が覚めたのね」
「ええ、お泊まりする形になれたとはいえ、私達には幻想郷を護る為に旅をする役割がありますから」
「そうね……」
二人はその揺るぎない目標を互いに確かめあって頷き合ったのだ。
「勇美さんも同じ気持ちで良かったわ。その事に『皆さん』も気付いてくれたようだし」
「『皆さん』?」
そう勇美が聞き返すと、そこに声が掛かって来たのである。
「勇美〜、鈴仙〜。ご飯が出来たよ〜
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