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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋神の巫女と魔剣《デュランダル》 Y
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お前は何に脅えているんだ。私怨を晴らさなければならない、そもそもお前が白雪の後を追った理由は何だ──?


そう自分に言い聞かせながら、胸の内に、とぐろを巻く蛇のように渦巻く感情を感じていた。冷酷な、或いは獰猛な、自分でも整理が容易にはつきそうもない、そんな感情を。


「俺の仲間に負わせただけの痛みは、そのまま返してやる」


引いた人差し指は、やけに重厚感を孕んでいた。地下倉庫に響鳴する38口径の発砲音。いつも聞き慣れている音のはずなのに、どうしてこんなにも鬼胎の念を抱かねばならないのだろう。
背後で応急処置をしていたアリアが、突然の銃声に振り返る。
その瞳には僅かほどの焦燥が見えた。こんなことは予定にない、幾ら増援が来るまでの時間稼ぎにしてもやりすぎではないか──と、訝しげにキンジを見つめる。

しかし今のキンジには、そんな人目を気にする余裕など持ち合わせていなかった。最中に脳裏に響くのは、ジャンヌの疼痛が漏れた声。それを無理やり無視しながら、胸の内の感情に付ける名前を、何とか見つけている。ポタリ、と何かが滴下する音さえも、今では煩わしい以上に煩わしかった。


──あぁ、そういうことか。俺のこの行動は報復だ。ならばこの感情は、私怨か? 否、そんな生易しい感情ではないはずだ。
──怨嗟。強い怨みと怒りとが合わさった感情、か。


その語感が馬鹿馬鹿しいほどに脳髄に浸透していく。靄がかかっていたはずの胸の内も、もう晴れてしまった。


──あぁ、どうにも納得がいった。それならもう、ジャンヌを放っておく必要はないな。彩斗の処置もあるし、何より……。


そこまで考えを巡らせてから、キンジは片腕を掲げる。

彼の視界に映っているジャンヌに、もはや戦意やら闘志というようなものは残っていない。頽れる様に浮かぶのは、ただ自らの未熟さと悲運を嘆く感情ばかりで、そして何より、遠山キンジというただの武偵に追い討ちをかけられたその事実こそが、辛抱いかなかった。滔々と流れ出る紅血を、呆然と見遣っている。

──刹那、キンジとジャンヌとの間に煙幕が張られた。背後で隠密待機していたらしい何十もの人間の気配が、一気に増えてゆく。心待ちにしていた教務科の増援が来たのだ。
煙幕はすぐに晴れた。最前線に居るキンジが率いているのは、蘭豹や高天原ゆとり、綴梅子や南郷──少なからず見識のある教務科の面々を始め、強襲科の少数精鋭。待望の救護科も居る。

ようやく見えた勝ち筋に安堵の息を吐きながら、キンジは幾重もの感情を整理させていく。僅か数歩の距離を歩み寄ると、懐から手錠を取り出した。その手はもう、震えていなかった。
そうしてジャンヌと目線を合わせ、簡潔かつ冷淡に告げる。


「──お前の負けだ
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