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べとべとさんがいたので
第五章

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「別に」
「ああ、それはな」
「そう言われるとね」
「寂れて人がいなくなったら妖怪が棲む」
 娘は何処か達観した様な目で述べた。
「そういうものなのね」
「もうとんでもなく寂れてな」
「残念に思っていたけれど」
 両親はこうも言った。
「それがな」
「そうした風になるのね」
「世の中人間だけが住んでないしね」
 娘はこうも言った。
「だからね」
「それでだな」
「妖怪も棲むのね」
「生きものの場合もあるし。まあ犯罪者じゃないならいいでしょ」
 娘はまたこういった。
「妖怪なら」
「別に悪さもしていないしな」
「ただ遊んでるだけだし」
「それならな」
「いいわね」
「ええ、じゃあ子供達はよね」
 娘は両親に言った。
「今日はお父さんとお母さんと寝るのね」
「それでお前は雄馬君と寝るんだ」
「そうしなさい」
「わかったわ、ただまた言うけれど」
 娘は両親をじっと見てこうも言った。
「寝る時も甘やかさないでね」
「またそう言うんだな」
「今もなのね」
「そりゃ言うわよ、子供は甘やかさない」
 ぴしゃりとした言葉だった。
「そうしないとね」
「たまにはいいだろ」
「そうしても」
「そういう訳にはいかないから」
 娘の言葉はあくまで厳しかった、そうしてだった。
 二人はこの日は孫達と寝た、だがその時今の商店街のことは話さなかった。話したのはかつての桜井そして商店街のことだった、人がいた時のことを。 
 娘一家が実家に帰ってだった、二人は昼に商店街を歩いたが。
 やはり店は何処も閉まっていて人もいない、だが。
 その中で二人のもの以外の足音が聞こえた、孫達が言った通りに。それでだった。
 二人は自然と微笑んだ、そうしてその足音を聞きつつ二人以外は誰もいないその場所を歩いていった。寂しさはまだ感じていたがそれと共に人のものでないにしてもかつての賑わいも感じて。


べとべとさんがいたので   完


                    2020・8・12
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