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アマエビ
第一章
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        アマエビ
 江戸時代もそろそろ終わりの頃の肥後今の熊本県の話である。
 熊本藩の藩士仮に名前を氏家為信としておこう、氏家はその話を聞いて眉を顰めさせた。
「海からとな」
「はい、海から出て来たとのことです」
「その者が」
「それでどなたかこの地を治めている方を呼んで欲しいとです」
「そう言われています」
「この藩を治めているとなると殿であるが」
 藩主自分の主だとだ、氏家はその細面で言った。やや小柄だが身体は武道の鍛錬によって実によく引き締まっていて袴も似合っている。
「しかし」
「はい、この地となると」
「氏家様が代官ですし」
「それならば」
「それがしとなるな」 
 氏家は報告をする者達に答えた。
「やはり」
「はい、それではですね」
「これよりですね」
「そちらに行かれますね」
「海の方に」
「案内してくれ」
 こう報告をした者達に答えた。
「今より」
「わかりました」
「それではです」
「今からそちらに案内させてもらいます」
「そうさせてもらいます」
「ではな」
 こうしてだった、氏家は海の方に赴いた、するとだった。
 実に変わった者がそこにいた、半分は魚で半分は人であった。そして顔はまるで怪物であった。どう見て人ではない。
 それでだ、氏家は周りの者達に言った。
「明らかにな」
「人ではないですな」
「人魚でしょうか」
「しかし人魚にしてはです」
「どうも違いますな」
「聞くところによると」
「うむ。人魚に近いと思うが」 
 しかしというのだ。
「これはな」
「人魚ではないですな」
「どうにも」
「それではこれは何でしょうか」
「一体」
「この者自身に聞こう、別にこの辺りの民達に悪さはしていないな」
 氏家は周りの者達にこのことを問うた。
「そうであるな」
「はい、海に上がってです」
「この辺りの民達にこの地を治めている者を呼んで欲しいとです」
「そう言うだけで」
「民達にはです」
「何もしておりません」
「ならよい、民に危害を加えないならな」
 それならというのだ。
「別にな、ではこの者から話を聞こう」
「直接ですか」
「そうされますか」
「これより」
「それがしを呼んで欲しいというからにはだ」
 それならというのだ。
「それがしに話したいことがある様だからな」
「ではですね」
「それではですね」
「これよりですね」
「この者から話を聞きますか」
「そうしよう」
 こう言ってだった、氏家はその人とも魚ともつかぬ者の前に出た、その者が何かすれば腰の刀で斬るつもりだった。
 その用心をしつつ問うた。
「それがしに用があるか」
「そこもとがこの地を治めている御仁か」

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