第三章
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「そしてね」
「ああ、奇麗にしてあげてな」
「お散歩も連れて行ってね」
「ちゃんとしていこうな」
「そうしましょう、あの人ワンちゃんに名前もつけてなかったし」
「名前もか」
「そうだったの」
そうしたこともしなかったというのだ。
「どうもね」
「じゃあ名前もつけてあげるか」
「そうしましょう」
そこからだった、二人は犬が雄ということからロンとイメージで名付けた、そうして二人で大事に育てていくと。
最初は老婆に可愛がられていたのが急に放置される様になって人間不信になっていた彼もだった。徐々に。
人に慣れて明るくなった、その彼を見てだった。
妻は夫に笑顔で話した。
「元のロンにね」
「なってきたよな」
「ええ、お婆さんが飽きる前の」
「そうなったな」
「私達に慣れてね」
そしてというのだ。
「人間をまた信じてくれる様になって」
「そうだな、よかったな」
「ええ、これからはね」
「ロンにもっとな」
「優しくしてあげて」
妻は夫にさらに話した。
「そしてね」
「そのうえでな」
「もっと幸せになってもらいましょう」
「それがいいな」
「どんどん健康も取り戻していってるし」
引き取った時はかなり衰弱していたがだ、散歩もせずずっとほったらかしで不潔な環境にいつもいるなら当然のことだ。
「毛並みもよくなってきてるし」
「それじゃあな」
「もっとね」
「健康になってもらってな」
「奇麗になってもらいましょう」
「そうしような」
夫も頷いた、そうして二人でロンを大事に飼っていったが。
ある日その老婆が家に来て留美に言った、夫は仕事で家にいなくて彼女も丁度パートから帰ったばかりで今からロンの散歩に行くところだった。その時に老婆が来たのだ。
老婆はいきなり彼女に言った。
「ねえ、そろそろ犬返してくれるかしら」
「えっ！？」
留美はその言葉にまずは我が耳を疑った。
そして次の瞬間に老婆に聞き返した。
「あの、今何て」
「だから犬をね」
「あの、ロンは私のお家で引き取ったんですよね」
「そうだったかしら」
「そうだったかじゃなくて」
その呆れた口調でさらに言った。
「あの、本当に」
「あの子は私が三十万で飼ったのよ」
「ですがほったらかしでしたよね」
このことを指摘した。
「それで私にあげましたね」
「じゃあ三十万払ってくれるかしら」
これが老婆の返事だった。
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