第三章
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「よいではないか」
「ですか。では」
「今日は」
「無論助けることはせぬ」
皇帝の指一つでコロシアムの者が助かるかどうかが決まる。熱病から戻ってからの彼が助けることはなかった。
だが今回はとりわけだというのである。
「最後の肉片になるまでだ」
「放っておかれるのですか」
「そうされますか」
「では見よう」
水で割り胡椒や金粉が入った赤ワインを飲んでから言った。口元がワインで汚れ血で濡れた様にさえ見える。
「今からな」
「では」
周りも何も言えなかった。獣達はキリスト教徒達に襲い掛かった。
彼等は恐怖そのものの顔で獣達から逃げようとコロシアムの中を駆け回る、しかしコロシアムの門は閉じられており壁は高い。
それでも壁を必死によじ登り逃げようとする。だがそこで捕まり。
獣の爪を受けて引き摺り下ろされる。それで倒れると背中や腹にさらに一撃を浴びた。
悶絶し動きを止めると獣達は次々に食らいついてきた。
腕や足、そして頭が噛まれ焼ける様な激痛に苦しんでいると獣達は噛みついたまま渾身の力で肉を引き千切っていく。
腕や足の一部が引き千切られその肉片が次々と喰われる。裂かれた腹から内臓が生きたまま食われている。
八つ裂きにされ首が転がりまだ息のある者が絶え絶えになりながら身体をさらに裂かれ食われていく。転がっている首を取り合い獣達が喧嘩さえしている。
カリギュラはその無残な有様と血に濡れたコロシアムの闘技場を見て実に楽しげに再び周りにこう言った。
「最高ではないか」
「人が獣に喰われる有様がですね」
「それが」
「うむ。実によい」
己の前にあるワインや馳走、今も豪勢に並ばせているそれを悠然と食しながらの言葉だった。
「朕は楽しんでいる」
「ではこれからもですか」
「キリスト教徒達を」
「捕まえればこうして餌にせよ」
今も熊に意識のあるまま内臓を食われている者達を見ての言葉だ。
狼は群がりその首を振って身体を引き千切る。断末魔の顔の女が内臓をその肉に食われ頬や目を貪られている。
殆どの者がそれを見て呆然となっている。しかしカリギュラだけは別だった。
その有様を悠然と見て美食と美酒を楽しみこう言うのである。
「その都度朕も見よう」
「そうされるのですか」
「これからも」
「実にいいではないか」
まるでそれが最高の娯楽の様に言う。そうしてだった。
彼はコロシアムの後は己の宮殿で美女達、幼女や人の妻まで入れたその中で宴を楽しんだ。そこでも些細なことで罪人とした者の皮を剥ぎ目をくり抜いた。
夫や子、兄や弟達を捕らえ動けなくして彼の目の前で女に異様なやり方で手を出す。枯れの行いは乱倫、そして残虐を極めていた。
カリギュラの暴虐は永遠に続くかと思われた。だが。
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