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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第51話 若気の驕り
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よる星系奪還作戦。独立部隊を含め五〇万近い将兵の生死を賭けた作戦の骨格と、作戦の成否の物差しとなる戦略評価を、採用の可否はともかく一介の少佐に計画させるということだ。そうなると別の疑問が浮かんでくる。

「機動集団次席指揮官であるジョン=プロウライト准将閣下のご意見はいかがなのでしょうか?」
「最終的には彼を含めた他の独立部隊の指揮官・参謀による合同会議で決定する。が、その前にジュニアには現在の第四四機動集団司令部としての意見骨子を作ってもらいたい」
 爺様の口調は極めて峻厳だった。
「貴官の意見は意見じゃ。全てを採用しようなど儂は微塵も思っておらん。じゃがいずれにしても判断を下すのは儂であって、プロウライトではない。その事を肝に銘じろ」

 当然の疑問であり、そして答えもわかっている質問だった。俺はうかつにも老虎の尻尾を踏んでしまった。職権を超えた前世日本の空気読みをしてしまったことを後悔し、俺は小さくした唇を噛んだが、それを爺様の鋭い視線は見逃してはくれなかった。

「そういう気配りをするなとは言わん。じゃがそれはモンシャルマンの仕事であって、貴官の仕事ではない」
「は、申し訳ございません」
「自分には出来ると思っているからそういう疑問を持ったんじゃろうが、一度も帝国軍と直接戦ったこともない小僧に、まともな作戦や評価が出来ると思っておるのか? 思い上がりも甚だしいぞ!」

 ドンッと爺様の右拳が執務机に振り下ろされた。決済箱が振動で机の上で小さな驚きを見せる。怒られて当然のことで俺は爺様に何も答えられず直立不動のまま指一本動かせなかったし、なぜか爺様の左後ろに立つファイフェルの顔色は白を通り越して青くなっている。
 僅かな空調の音だけが爺様の執務室に流れたのはどのくらいか。執務室の時計は俺の左側の壁にかかっているが、爺様の顔から視線を動かすことすらできないのでわからない。恐らく数分だったのだろうが、三〇分以上にも感じられた沈黙は、爺様の方から破られた。

「ジュニア、帝国軍は追っかければ逃げる海賊とは指揮も武装も何もかも次元が違う存在じゃ。それをしっかりとわきまえて作戦と戦略評価を作成せよ」
「は、肝に銘じます」
「ファイフェルの休日は貴官に預ける。それと軍属契約の許す範囲であの嬢ちゃんの残業時間も付ける。わかったな」
「承知いたしました。微力を尽くします」

 俺がそう答えた後、士官学校に入学してから最高と思われる精度での敬礼を爺様にすると、爺様は面倒くさい表情で座ったまま敬礼すると、ハエでも追い払うかのような手ぶりで俺に出ていくように示し、席から立ち上がって俺に背中を向ける。

 その背中に俺は最敬礼した後、顔を上げた時、目に入ったのは殆ど死後硬直のような有様のファイフェルの立ち姿だった。

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