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黄泉ブックタワー
第三章 黒き天使
第11話 今まで生きてきた中で、一番楽しかった
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 アカリとミナトは、ふたたび契約の地・秋葉原へと戻ってきた。

 一般的な会社であれば、終業直後と思われる時間。
 そのせいか、駅前には人の数が多い。まだ日は沈んでいないが、ロータリーは周りの建物の影に入っており、やや暗く感じた。

 空を見上げると、天高くそびえ立つ本魔の塔があった。
 相変わらずの、黒く禍々しい姿。

「なんかあの塔、久しぶりに見る気がするね。そんなはずはないんだけど」

 直近で見たのは、旅行に出る日の朝だから、つい昨日のことだ。

「……そうだな」

 ミナトも、やや溜めたのち、抑えた声量で答えた。
 二人は、契約を結んだファーストフード店の方角に向かって、歩き始めた。

 ――旅が、終わってしまう。

 上野駅の少し手前でポンポンと頭を叩かれて目を覚まして以来、確実に迫ってきているその事実が、徐々に重さを増してアカリにのしかかってきていた。

 明日からまた、なんの変わり映えもない毎日が始まる。
 この不思議な悪魔とも、会うことはなくなる。

 残念。
 アカリの頭は、素直にそう感じていた。

「あーあ。ずっと一緒に、どっかに行っていたかったな」

 それは、口に出すつもりではなかった。
 やたら楽しそうで、同伴者として一生懸命。だが、彼にとっては旅への同行はあくまで『契約の履行』にすぎないはずだ。
 だからそんなことを言う予定ではなかったし、何より恥ずかしい。
 なのに、ボロッと出てしまった。

「俺もそう思う」

 取り繕う間もなくまっすぐな同意が飛んできて、アカリは救われた。発赤しかけていた顔が、急速に元通りになっていく。

 自分の隣、歩道の車道側で歩く彼を見た。
 願いはきちんと叶えるが、他の悪魔のように魂を奪うことはしないという、ちょっと変わった悪魔。
 その表情は、まだ旅行中と変わらない。悪魔の一種だということが嘘のような、優しく純粋な笑顔。

 ――よかった。

 帰りの特急列車に乗っていたあたりから、彼は徐々に口数が減っていた。
 ひょっとしたら、同じようなことを考えてくれていたのだろうか。
 もしもそうであれば、うれしい。そう思った。

 列車の冷房でひいていた汗がふたたび噴き出してきていたが、アカリは普段よりゆっくりと歩き続けた。
 彼も、特に何も言わず、同じペースで歩いてくれた。



 二人の目の前には、契約をおこなったファーストフード店。
 ミナトが、アカリよりも少し前に出て、足を止めた。
 その意味を理解しているアカリも、それを見て足を止める。

「アカリ」
「うん」

 振り返って向き合ってきた彼の笑顔は、どこか寂しげで、先ほどまでに見せていたものとは異なっていた。
 まだ彼と知り
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