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黄泉ブックタワー
第二章 旅は魔本とともに
第8話 自分の手でよければ、いくらでも
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食べることは≠ニいう言いかたが少し気にはなった。

 が、突っ込もうかどうか考えているうちに、ミナトは説明を続けてきた。
 基本的に本魔の社会は魔本の知識で作られているため、食文化も存在し、最新ではないものの、人間の世界に準じたものが存在するとのことだ。

 その真偽を確かめる手段がアカリにはないわけだが、目の前で器用に箸を使って魚を食べている彼の姿を見てしまうと、信じざるをえない。



 食後、小ぶりな浴場で入浴を済ませ、ふたたび部屋に戻ってくると、布団が敷かれていた。
 二つ。隙間なく、並ぶように。

「あら。くっついてるね。離そうか?」
「おっ。悪魔を警戒してるな? けど心配無用だぜ。俺は寝ないからな」

 似合わない浴衣姿で、そんな返し方をしてくるミナト。

「余計心配だけど……。でもどうして寝ないの?」
「悪魔は寝なくても、人間みたいに次の日フラフラになることはないんだよ」

 微妙にぼやかしたその言いかたでは、眠くなるのかどうかまでは読み取れない。
 わかるのは、寝ないという意思表示だけだ。

「つーことで。おばちゃんにお願いしてた本を読むつもりだぜ」
「あー。このかごは、そういうことだったんだ」

 布団の近くに買い物かごが置いてあり、本がどっさりと入っていた。
 見えている限りでは、このあたりの旅行ガイドや、地理歴史に関する本が多そうだ。

 旅行前にアカリが聞いていた話では、彼は魔本であれば超高速で読破でき、キーワード検索のようなことも可能らしい。だが人間の世界の本については、並の人間より速く読める程度であるという。

 旅行先でわざわざ本を借り、時間を使って読む。アカリには理解しかねることだったが、かごの本を眺める彼の表情は、まるで子供のように輝いている。

 ――でも、ずっとこんな感じだったかも?

 朝に待ち合わせ場所で会ったときも、特急列車に乗っていたときも、車で移動していたときも、鍾乳洞に入っていたときも、彼はここまでずっと面白そうな顔をしていた。

 無理やり連れてこられたのに、この変な悪魔は何がそんなに楽しいんだか。
 そう思いつつ、布団に入った。



 嫌な予感は十二分にしていたが、やはりアカリはなかなか寝つけなかった。

 エアコンは入っていて、暑くはない。
 部屋の照明も、「俺は暗くても普通に読めるから」とミナトが消してくれていたので、明るくもない。

 仰向けで目をつぶって、じっとしている。
 でも、眠れない。
 時計の音が、耳を刺激し続ける。

「寝られないのか?」

 起きているというサインは出していなかったはずなのに、隣の布団から声がかかった。
 アカリは右向きになった。
 移動のタイミングを逃した
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