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癌でも
第三章

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「スカラ座の方でも」
「常連のだな」
「はい、富豪の人達の」
「お座敷のだな」
「そうです、あの人達が」
「あの人達はあれが普通だ」
 スカラ座の彼等もというのだ。
「下手したら二度と来るなだ」
「追い出されますか」
「有名な指揮者でも歌手でもな」
 彼等が気に入らなければというのだ。
「幾ら素晴らしい指揮や歌でもな」
「理不尽なものですね」
「そこは言わないでおこう、下手なことを言うとな」
「マエストロがですか」
「そうなるからな」
 スカラ座から追い出されるというのだ。
「彼等は音楽監督よりも強い」
「スカラ座の真の支配者ということですね」
「そうも言っていいからな、だからな」
 それでというのだ。
「彼等の言うことにもだ」
「反論はしないですか」
「大事なのは完治させることだ」 
 バスティアニーニはこれまでの何処か余裕のある全てをわかっている口調から一転して真面目な声で話した。
「何といっても」
「癌をですね」
「これを完治させて」
「これからもですね」
「私は歌っていく」
「そうされますか」
「まだ引退する年齢でもない」
 真面目な声のままでの言葉だった。
「そうだな」
「はい、マエストロはまだ四十代です」
 医師もこう答えた、彼も真面目な声になっている。
「実際にです」
「引退にはだな」
「まだまだ早いです」
「そうだな」
「ですから」
「完治させてだな」
「後は声を完全な状態に戻し」
 そうしてというのだ。
「これからもです」
「歌っていくべきだな」
「そうされるべきです」 
 医師の言葉は一も二もないものだった、そのうえでバスティアニーニの喉に対して放射線治療を続けた。
 バスティアニーニは喉頭癌が完治しそうして再び元の状態で歌える様に励んでいた、だがその中でだった。
 やはり癌の影響は大きく舞台も次第に減っていっていた。それで批評家達はこうしたことも言い出した。
「演奏過多だったか」
「流石にな」
「発声障害になったか」
「どうも遊んでいる気配はないしな」
「それを見るとな」
「それか」
 演奏過多による発声障害になったかというのだ。
「だとすれば問題だな」
「いい歌手だけにな」
「少し休んで欲しい」
「そうだな」
 こうした同情的な言葉も出ていた、その中でバスティアニーニは様々な国を舞台が減る中でも回っていた。そして。
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