ちいさなしまのおはなし
ムゲンマウンテン
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丈は3人兄弟の末っ子である。
小学6年生の丈と違い、上2人はもう高校生と大学生、大人として見られる歳だ。
だいぶ遅くに生まれた末っ子は、それはもう兄2人からも母からもたっくさん構われた。
丈が生まれた頃には兄2人は既に母親の庇護から離れていたせいか、母親が丈に付きっ切りになったとしても羨んだり妬んだりすることなく、それどころか積極的に面倒を見てもらったものだ。
勉強面でもそうだったし、将来の夢に関しても、兄2人は丈にとって目標であった。
丈の一家は医者の家系で、代々大手の病院でそれなりの地位についている。
母も看護師だし、大学生の兄は医大、高校生の兄も大学生の兄と同じ大学に通うべく、日々勉強している。
丈も、漠然とではあるが医者を志していた。
しかしそれは、親が強制したものでも、丈が自分で決めたことでもなかった。
ただ何となく、家族みんなが医者だから医者になろうと思っているだけだ。
だが末っ子としてみんなに可愛がられてきた丈は、自分自身のことであるはずなのに、そんなことにすら気づいていない。
ただこの6年間真面目に、真っすぐに、がむしゃらに勉強していた。
勉強していたせいで、周りを見る余裕もなくなっていた。
一心不乱に、自分を追い込むように勉強していた我が子を心配し、無理やりサマーキャンプに参加させたのは、母親の親心というものであろう。
丈からすれば、勉強する時間を取られるから余計なお世話なのだが、まさに親の心子知らずである。
丈は気づいていないが、丈が医者を志しているのは上2人に対するコンプレックスからだ。
2人とも優秀で、自慢の兄だ。
勉強だけでなく、スポーツの方面でもいい成績をたたき出している。
だからこそ、丈は劣等感を無意識に抱いていた。
末っ子でありながら真面目に振る舞うのは、そんな劣等感の裏返しである。
何の取り柄もなく、ただ2人の兄の後を追う形で医者を志している丈は、真面目に振る舞うことしかできなかった。
いつしかその振る舞いは気質として丈を形成する1つの個性となり、それがゆえに異質なものを受け付けられなくなっていく。
“AはAである”という固定概念から抜け出せず、クラスメートからも“真面目だけどとっつきにくい”という印象を抱かれてしまい、遠巻きにされていることにも気づいていなかった。
夕飯時の会話からも、それが見て取れる。
しっかりしようと、みんなを導こうと振る舞えば振る舞うほど、空回りしてしまうのである。
無理もなかった、最年長であっても丈は末っ子として育ってきた。
上2人の兄を手本として、兄達がやっているように振る舞ってきたはずなのに、なのにどうしてみんな言うことを聞いてくれないのだろう。
どうしてあんなにも簡単に割り切れるのだろうか。
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