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絶対に夜空は見上げない
絶対に夜空は見上げない
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[9] 最初

「そういえば、<カサンドラ>って、あんまり、いい意味じゃないんでしょ? なんか、名前をつけるときも学会で揉めたって」
 彗星が通っているらしい。みんなはそれを見て、思い思いに楽しんでいるようだ。私は夜空を見上げない。別に反抗の意志ではない。手元にある学生証を見つめながら、岡本さんという人のこと、フードアートのこと、そして自分の将来のことを考えていたのだ。そこに星が入り込む余地はなかった。
 この学生証はどうしようか。明日も三連休最後の日で、まだ休みだ。大学があるのは隣の県だけど、明るいうちに行って帰ってこられるなら、お母さんも許してくれそうだ。ただ、一人ではダメだと言われるかもしれない。
 私は学生証をポケットに入れて立ち上がった。それから、見晴らしのいい、人が一番集まっている場所に向かって駆け出す。彗星はもう去っていた。人混みの中に、赤いハットを頭に乗せた女の子を見つけた私は叫ぶ。
「マイちゃん! 明日、予定ある?」

(終わり)

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