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気難爺さんとパグ
第一章

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                気難爺さんとパグ
 佐藤晋作は妻の理恵が家に連れて来た白と黒のパグを見て言った。
「犬か」
「見てわかるでしょ」
 還暦になってすっかり皺が増えた顔の妻は夫にこう返した。
「そんなことは」
「何でうちにいるんだ」 
 佐藤は妻にこうも問うた、縮れた黒髪で丸眼鏡である、一七〇程の背は少し曲がっている。実に気難しそうな顔だ。
「わしはそれを言ってるんだ」
「これからうちで飼いましょう」
「うちでか」
「あなたも定年だし」
「暇になるからか」
「暇になったらね」
 それこそというのだ。
「ぼけるし」
「わしはぼけん」
「皆そう言うのよ」
 やはり返事は素っ気ない。
「だからよ」
「犬を飼ってか」
「そう、それで一緒に暮らしてね」  
 そうしてというのだ。
「ご飯あげてお散歩連れて行って」
「そうしてか」
「ぼけない様にしましょう、お散歩が運動にもなるし」
「だから余計にいいか」
「ええ、いいわね」
「わしが嫌だと言ったらどうする」
「飼うわよ」 
 それでもというのだ。
「もう決めたし」
「お前が飼うのか」
「ええ、それであなたにも世話をさせるから」
 例え夫が嫌と言ってもというのだ。
「いいわね」
「何でも決めたな」
「だって本当に私ぼけたくないし」
「わしがぼけてもか」
「困るからよ」
「ぼける話ばかりするな」
「実際そうなってからじゃ遅いからよ」
「ふん、そう簡単にぼけてたまるか」 
 夫は妻のその言葉にむっとした顔で返した、だが妻は犬を飼いはじめた。餌もそれを入れる皿は既に用意してありリードも小屋もであった。そして名前は。
「雄だからゴンにしたわ」
「ありきたりな名前だな」
「じゃあ他にいい名前ある?」
「知らん」
 夫は妻に憮然とした顔で返した。
「これといって思いつかん」
「ならいいわね」
「ゴンか」
「ええ、まだ名前なかったし」
「そういえばこの犬はどうしてうちに来た」
「里親募集のサイト見て貰ってきたの」
「そうだったか」
 夫はここでこのことを知った。
「わかった」
「そういうことでこれから宜しくね」
「散歩も行ってか」
「毎日朝と夕方二回行きましょう」
「雨でもか」
「雪でもね、ワンちゃんはお外でおトイレするし健康の為に身体動かさないといけないのは人もワンちゃんも同じだから」
 それでというのだ。
「いいわね」
「全く、何でも勝手に決めていくな」
「ワンちゃんのことだけじゃない」
「それでもだ」
 自分の意見を聞かずに決めていくとだ、夫は妻に言った。そうしてだった。
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