閑話2 エル・ファシルにて その2
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宇宙暦七八八年八月 エル・ファシル星域 エル・ファシル星系
脱出計画について、実行する手段についてのめどは完全に立っている。必要なのは適切な脱出のタイミングだけだ。ヤンは一睡もせず民間宇宙港の小会議室でじっとある報告を待っていた。それが届いたのは夜が明けてすぐのことだった。
「間違いありません。昨夜から夜明け前にかけて補給廠より軍用宇宙港の貨物ターミナルへ、大規模に物資が移動しています」
警部補の階級章を付けた治安警察官の一人がヤンに耳打ちした。
「仰られた際にはまさかとは思いました。やはり軍司令部は我々を見捨てるようですね」
「私もいちおう、その軍司令部の一人なんだけどねぇ」
憤る警察官の言葉に、ヤンは頭を掻きながら応じた。どう答えていいかわからないといった表情の警察官をよそに、ヤンの頭の中はフル回転している。
軍司令部が民間人を見捨てると決めたのは間違いない。だが三五〇隻全てが一丸となって行動するか、それとも分散して逃げ出すか。それによって話は変わる。
脱出作戦の骨子は、護衛を放棄した艦隊を囮にして、太陽風に乗りレーダー透過装置を作動させず、隕石群を装って悠々と逃げ出すことだ。一丸となって逃げるのであれば、それに対して惑星を挟んで反対側から脱出すればいい。だが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した場合はどうするか。不用意に帝国軍の索敵範囲の拡大を招き、船団への接近を許すことになりはしないか。
ヤンは警察官に軍司令部が脱出した場合は、民間人がパニックにならないよう、各船へ民間人乗船の誘導準備を整えることを指示して、一人管制塔へとむかった。管制塔では民間宇宙港の施設要員と管制官が缶詰になって準備を進めている。管制は惑星周辺の運航も含まれるので、軍の索敵設備を介せず、狭いとはいえ周辺宙域の状況把握が可能だ。
「軍艦の配備状況を教えてくれ」
ヤンからそう頼まれた管制官は、この糞忙しいと時に余計な仕事を増やした若造を怒鳴ろうと思ったが、いつになく真剣な表情のヤンの顔を見て、幾つかのレーダー情報をリンクさせ、簡単なホログラフを作り上げた。まだ識別装置が作動している状況なので、どこにどの艦がいるかはっきりとわかる。集団は九個。一番大きな集団は五〇隻程度で、その中心に戦艦グメイヤが確認できる。他の八つの集団には戦艦は配備されず、数も三〇隻前後。全体を見ればグメイヤのいる集団を中心とした球形陣にちかい。
「なるほど」
昨晩司令部で見た限り、帝国軍の布陣はこの惑星を目標としつつも、基本的には鶴翼の陣形をしていた。四〇〇〇隻とは実に微妙な数で、一惑星への攻撃戦力としては充分だが、惑星全体を覆いつくすような包囲を施せるほどの数ではない。後の先、というだろうか。同盟軍の動きに応じて戦力を運用するつもりだ。帝国軍の
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