暁 〜小説投稿サイト〜
綿毛
タンポポ

[8]前話
 今日もミツバチがやってきた。何かいいことでもあったのだろうか。いつもより随分と上機嫌に見える。
「どうしたんだ、って感じだな。実はさ、今日、彼女(メス)と二人っきりになってさ、それで…」
 確か、昨日も彼は同じようなことを言っていた。新しいガールフレンドのことを話したいのだろう。
「わかったわかった。君の彼女のことは十分知ってるさ。ほれ、いつものミツだ」
 そういって話を中断させ、いつも通りミツを差し出す。
「どうも。それで、タンポポには好きなやつはいるのか?」
 ミツを吸いながら、彼は行った。
「いない。いつも言ってるだろ。ここは道路のすぐそばだから、他のタンポポとの付き合いは無理なんだ」
「そうか。それで、あの子のことなんだけどさ、本当に可愛くて、性格も良くて…」
 ミツバチはよく喋る。面倒と言えば面倒だが、なんだかんだで退屈はしない。
 こうして、互いに暇なときは、とりとめのない話でもして時間を潰しているのだった。

「おまえ、寂しくないのか?」
 ミツバチが不意にそんなことを尋ねてきた。
「急にどうしたんだ?」
 あまりにも唐突なものだから、困惑せざるを得ない。
「いや、だっておまえ、動けないだろ」
「それがどうしたんだ?」
 ミツバチは哀れむような目を自分に向けている。
「だってさ、俺がおまえの立場なら、絶対いやだぜ。ずっと、こんな寂しいところで生きていくなんて」
「どうして?」
「いや、それは…」
 ミツバチは言葉を詰まらせた。独りは寂しい。それは、彼にとってあまりに当たり前のことなのだろう。そこに理由を見つけるのは難しい。
「もちろん、寂しいさ。でも、自分にはどうにだってできない。こんなところに僕を飛ばした人間の男の子を恨むしかないのさ」
 そう、風じゃなくて、理不尽な人間に飛ばされたのだから、こんな辺鄙な、仲間のいない場所に根を張ることになったのだ。
「…じゃあ、連れて行ってやるよ。おまえをどこか、楽しい場所に」
 ミツバチが大真面目にいうものだから、笑ってしまった。
「ありがたいけど、それはできない。この場所から逃げるわけにはいかないんだ。だってそれは、タンポポにとって最も恥ずべき行為だから」
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