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神機楼戦記オクトメディウム
第5話 舞いの神:後編
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であった。
 そして、自分の頭の下にある柔らかい感触に気がいく。
 そう、かぐらは今、姫子に絶賛膝枕をされている最中なのであった。そう認識したかぐらは、一気に顔が火照っていく感覚に陥る。
「あ、あんた何やって!?」
「ごめんね、戦場に枕を持ち歩けないから、取り敢えず私の『自前』ので勘弁してね。それと、急に動かないほうがいいよ」
「あ、ごめん……」
 そう言われた瞬間、かぐらは素直に姫子の言に従う事にしたのであった。
 そう、彼女は搭乗機体を破壊されて、そこから外へと送り出されたばかりであるのだから。幾ら弾神の武器が人間を傷つけないものであろうとも、そこから生まれる衝撃を完全に殺せてなどはいないのだから。
 そして、かぐらが無事に目覚めた所で、姫子ははにかみながら言うのであった。
「でも良かったよ、これでかぐらさんを『大邪から救い出す』事が出来たんだからね」
「あ……」
 その姫子の言い回しに、かぐらは呆気に取られた。
 この巫女は敵である自分を、終始救い出す事に奮闘してくれたのだと。
 それに加えて、彼女は姫子の人柄にも惹かれる所なのであった。
 追っかけのようなアイドルの熱狂的なファンは、多くが自分をアイドルに自己投影しているものである。つまり、自分の崇拝するアイドルこそが本当の自分自身だと体感しているという、常軌を逸した感性なのだ。
 勿論、その事を一概に責める事は出来ないかも知れない。それは、有能な群れのリーダーを自分自身だと思い、それに貢献していく事で群れ全体の強化を執り行う本能を『こじらせて』しまったものなのであるから。
 だが、自分に対して真摯に接してくれたこの巫女は自分のファンでありながら、それとは全く違う存在であったのだ。もしかぐらを自分自身だと感じていたならば、『あなたは間違っている』とは言ってはくれなかっただろう。他人に自己投影する者は一律、『自分』には甘くするものであるのだから。
 その事が嬉しく、かぐらは思わず目頭が熱くなってしまうのであった。
「ありがとう蒼月の巫女さん。あなたのお陰で大邪の力から抜け出せたのだから。それから、私の事を間違っていると言ってくれた事も……ありがとう」
「私は大した事はしてないよ。それと、今からは名前で呼んで欲しいな。私は『稲田姫子』っていうからね♪」
「はい、姫子さん♪」
 かぐらはそんな姫子に対して、素直に承諾するのであった。これだけ素直な気持ちになれるのも彼女に取って中々ない事のようだった。
 そんなかぐらに「いい子だね」と思いつつも、姫子はある思いが頭の中をよぎっていた。
 ──人の心をここまでもてあそぶなんて、これが大邪のやり方なんだね、と。
 その想いを胸に、姫子は一層大邪へ立ち向かう意思を燃え上がらせるのであった。
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