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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十三話 気晴らし
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なった。やはり知らなかったか……。

内乱の後、多くの貴族達が戦場から離脱しフェザーンに亡命した。亡命した貴族達の財産は帝国政府が接収した。反乱を起こしたのだ、当然ではある。そして貴族達がフェザーンの金融機関、投資機関に預けた資金も接収の対象となった。

フェザーンとしては撥ね退けることも出来たが帝国政府との関係悪化を避けるためそれを受け入れている。いや、正確に言えば関係悪化を怖れる同盟政府の意向を受け入れざるを得なかった……。フェザーン政府から各金融機関、投資機関に対し帝国へ資金の返還が命じられ実行された。つまり、亡命した貴族達は殆どが無一文になったのだ。彼らに出来る事は自らの宇宙船を売り払って金銭を得る事しかなかった。

幸い当時の帝国では貴族が没落したため交易に従事する人間が減っていた。交易船の需要は多かったから宇宙船が買い叩かれるようなことは無かった。そこそこの値段で売れただろう。今、亡命貴族達が生活に困らずにいるのもそれが理由だ。

ランズベルク伯アルフレッドは宇宙船を売っていない。生活費だけではない、宇宙船の維持費も発生している。決して小さな金額ではない筈だ。にもかかわらず彼は金銭に困っている様子を見せない……。

何処かから援助を受けているとしか思えない、だがランズベルク伯は周囲には宇宙船を売ったと言って後援者が居る事を隠している。
「後援者がいるとなれば大声で吹聴したいものだ。周囲を勇気づける事にもなる。しかしそれをしていない……」

『後援者は奥床しい方のようです。周囲に知られるのが恥ずかしいのでしょう。伯に口止めしたのでしょうね』
冗談を言っている場合か、ヴァレンシュタイン。

「反乱軍の主戦派がクーデターに失敗して捕まった。伯の資金源がそれなら伯にも捜査の手が及ぶ……。しかし伯にそれを怖れている様子は無いし金銭面で困っている様子も見せない。裏に居るのは別口だろう」
ヴァレンシュタインがクスクスと笑い出した。

『反乱軍ですか、それはちょっと拙いのではありませんか、ヘル・ファルマー。素性を疑われますよ』
「確かにそうだな、普段はそんな事は無いのだが……。どうやら卿と話していて帝国人に戻ってしまったようだ」
やれやれだ、思わず苦笑した。暫くの間二人で笑っていた。妙な事だ、この男とこんな風に笑う日が来るとは……。その事が更に可笑しくて笑った。

「自由惑星同盟ではないとすると……」
『それ以上は……』
「拙いか」
『ええ』
生真面目な表情だ。有る程度の目安はついているという事か……、そして危険な相手でもあるようだ。ここまでだな……。

「……何時か会えるかな」
『会えると思いますよ、それほど遠い事ではないでしょう』
ヴァレンシュタインが笑みを浮かべた。柔らかい、暖かな笑みだ。


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