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血塊
第一章

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              血塊
 相模国の足柄の地の囲炉裏を見てだった。
 伊勢新九郎はどうかという顔になって述べた。
「またな」
「うむ、これはな」
「どうしたものであろうか」
「囲炉裏に飯のしゃもじがある」
「これはどういうことであろうか」
 彼と共にいて相模に入った友人達も首を傾げさせた。
「一体のう」
「しゃもじは米櫃の中にあるもの」
「飯を椀に入れるものであるからのう」
「それなのにじゃ」
「何故この地ではそこにあるのじゃ」
「囲炉裏に吊るしておるのじゃ」
「結んで置いておるのじゃ」
 彼等はわからなかった、それで新九郎は足柄の村の庄屋の一人にこれは何故かと聞いた、するとだった。
 庄屋は彼に真剣な顔で話した。
「実はあやかしのせいです」
「あやかしの」
「はい、血塊という」
「血塊?」
「左様です、このあやかしが出るので」
 それでというのだ。
「それを常に吊るしておいて」
「あやかしが出るとか」
「これで打ち落として殺します」
「その様にしておるか」
「左様です」
「ふむ、その話は聞いた」 
 確かな声でだ、新九郎は頷いた。
「確かにな」
「それは何よりです」
「しかしじゃ」
 それでもとだ、新九郎は庄屋にどうかという顔でさらに言った。
「わからぬことがある」
「といいますと」
「その血塊とはどういったあやかしじゃ」
 庄屋に今度はこのことを問うた。
「一体」
「実は人が産んだもので」
「人がか」
「人と人の交わりで子が出来ても」
 それでもというのだ。
「この辺りではごく稀にです」
「その子がか」
「祟りと思いますが」
「あやかしになるのか」
「そして生まれてすぐに囲炉裏の上から吊っている自在鈎を上りそうしてか」
「そこから災いを為すか」
「自分を生んだ女を殺します」
「囲炉裏の上からじゃな」
「猿の様な身体で赤と白の舌がそれぞれあります」
「二枚の舌があるか」
「身体はかなり小さいですが」
 それでもというのだ。
「災いを為すので」
「生まれたら鈎を上る時にか」
「そこにあるしゃもじを取って」
「それで打ち殺すか」
「その様にしております」
「成程のう」
 新九郎はここまで聞いて納得して頷いた。
「何故その様にしておるかわかった」
「それでこの辺りにはあちらにしゃもじがあります」
「そのことはわかった」
「我等は常に血塊に怯えておりまする」
「そのこともわかった、ではな」
 新九郎はあらためて言った。
「わしに考えがある」
「といいますと」
「この地と川をじゃ」
 まずはこの両方をというのだ。
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