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偶然の出会いから
第一章
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                偶然の出会いから
 秦徹はこの時家にいる母に言った。
「コンビニ行って来る」
「えっ、外台風よ?」
 母は大学生の息子に言った、ぼさぼさの癖のある黒髪で落ち込んだ目で一六七程の背を丸くさせている彼に。
「いいの?」
「いいよ、別に」
 徹の返事は素っ気ないものだった。
「そんなの」
「濡れるわよ」
「帰ったら風呂入るから」
 それでとだ、徹は母に暗い顔で答えた。
「別にいいよ」
「そうなの」
「じゃあ行って来るよ」
「わかったわ、ただね」
 母は生気のない息子、玄関に向かう彼に言った。
「もういい加減ね」
「気を取り直せっていうんだよな」
「確かに辛いことだけれど」
 幼稚園の頃からの親友を事故で失くしてその葬式で泣きそれ以来塞ぎ込んだままで大学もアルバイトも日常生活も全く元気をなくした息子に言った。
「もうね」
「わかってるよ、ただ」
「今は、なのね」
「ずっと一緒にいたから」
 親友である彼はというのだ。
「あんないい奴いなかったから」
「それはね」 
 彼はよく家に来ていた、それで母も知っていた。
「ずっとあんたの傍にいてくれてね」
「優しくて俺がどうなっても見捨てないで」
「無実の罪で皆から責められたり失恋して笑われてもね」
「あいつだけはずっと俺を信じてくれて傍にいてくれたんだ」
「周りが何を言ってもね」
「俺の傍にいてくれたんだよ」
 そうだったというのだ。
「何があっても」
「そうだったわね」
「落ち込んでも励ましてくれて」
「そんなあの子がね」
「癌なんてな」
「若くても癌になるわよ」
 母はこのことは俯いて語った。
「それで若いとね」
「あっという間に進行してか」
「ええ」
「わかったよ、全部。けれどな」
「今は、なのね」
「こんなのだよ」 
 落ち込んでそして塞ぎ込んでいるというのだ。
「こうしてな」
「そうなのね」
「ああ、まだ無理だよ」
 元気になれないというのだ。
「本当にな」
「そうなのね」
「じゃあ行って来る」
 こう言ってだ、徹は肩を落としたまま玄関で靴を履いてそうして家を出た。母はその息子をこの二ヶ月のことを思いつつ見送った。
 それで家事をしていた、夫はこの時は出張で帰ってこない。それで息子が帰ってきたらすぐに風呂に入る様に言おうと考えていた。
 だがここでだ、息子は。
 家に帰ってくるとずぶ濡れの身体で手にあるものを抱いてこう言ってきた。
「猫拾った」
「猫?」
「ああ、捨て猫みたいだ」
「猫って」
「何か見捨てていられなくて」
 それでとだ、徹は母に話した。
「今の俺みたいだとも思って」
「落ち込んでいて」
「しょんぼりしていたから」 
 だからだと
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