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クラシックは人間性をよくするか
第四章

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 そして後で彼はある友人からクレンペラーのこの件での言葉を聞いた。
「私がヒンデミット氏を指揮者の代役にしてか」
「馬鹿な奴だと」
「彼が推薦したんだがね、どうしてもと言って」
 レッグはその言葉を聞いて尚更怒った、彼にとっては非常に忌々しい事件であった。ヒンデミット事件はナチスが絡んだものが有名だがこの事件もヒンデミット事件と言われるという。
 この件を思い出してレッグは知人に話した。
「本当に私もよく彼の友人でいられるよ」
「普通絶交以前の問題ですね」
「最初から交遊はしないね」
「そうですね」
「全く、どうにもならない性格の人物だよ」
「それでなのですが」 
 知人はここでレッグにどうかという顔で問うた。
「そのドクトル=クレンペラーを見て思うことですが」
「何かな」
「素晴らしい音楽、特にクラシックのそれは人間性を素晴らしくするという」
「その言葉は私も知ってるよ」
「この言葉は」
「彼を見ればわかるね」
「そういうことですか」
 知人はレッグのその言葉に納得して頷いた。
「よくわかりました」
「この世界実にどうかという者が多いね」
「確かに」
「その第九のベートーベンもそうした逸話が多い」
 とかく尊大で頑迷で気難しく癇癪持ちだった、毎度厨房で使用人の女達を怒鳴り生卵を投げつけていた。その為彼の家の使用人達は避けることが上手だったという。
「そして彼はワーグナーも得意だが」
「ワーグナーに至っては」
「言うまでもないね」
「そうですね」
 これまた尊大であった、しかも反ユダヤ主義者であり借金は踏み倒し図々しく失言癖と放言癖があり恩人の妻と関係を持ち弟子の妻に至っては奪ってさえいる。
「そういうことですね」
「そうした言葉はクラシックも人間も知らない人の言う言葉だよ」
「そういうことですね」
「そんなことは私の友人を見ればわかるよ」
 クレンペラー、彼をというのだ。
「本当に私はどうして彼の友人なのだろう」
「レッグさんしかなれないということでは」
「そうだろうかね」
 このことについてはレッグも答えを出せなかった、だが。
 レッグは最後までクレンペラーの友人であったという、この偉大であるが人格はまさにナチスが反ユダヤ主義の宣伝に使えるまでにどうかという人物も。この逸話は諸説あるがクレンペラーはこうした人物であった。彼を見てまことにクラシックは人間性をよくするのか、この言葉をよく考えるべきではないかと思う次第である。


クラシックは人間性をよくするか   完


                   2019・10・9
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