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クラシックは人間性をよくするか
第三章

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 作曲かとして知られるパウル=ヒンデミットがクレンペラーの代役として第九ベートーベンの交響曲で一番重要と言われるそれの指揮をすることになった。だが。
 レッグと他の者達の危惧は当たった、しかも予想以上に酷く。レッグはその指揮を聴いて頭を抱えてしまった。
「こんな第九は駄目だ」
「あの、これは」
「幾ら何でもです」
「酷過ぎます」
「質自体も酷いですが」
 それだけでなくというのだ。
「クレンペラー氏と比べますと」
「雲泥の差どころではありません」
「このこともありまして」
「もうこれは」
「マスコミが何と書くか」
 それこそと言うのだった、そして実際にだった。
 マスコミはこの演奏をこれ以上はないまでにこき下ろした、こき下ろしたと言えば聞こえが悪いが実際に酷い演奏だったので。
 レッグも反論出来なかった、ベートーベンを汚すとかとんだ第九とか書かれてもだ。だが新聞等の記事を読んだ後で。
 彼は怒ってクレンペラーが入院している部屋に向かった、するとクレンペラーもまたそうした記事を読んでいた。
 その彼を見てレッグはまずはそのことを聞いた。
「君はマスコミの批評の類は読まないのでは」
「暇だからだよ」
 それでとだ、クレンペラーはレッグに笑って話した。
「入院していてね」
「だからなのか」
「人は暇な時は何でも読むものだからね」
「普段は読まないマスコミの批評も」
「そういうことだよ」
「そうなのか、しかし今読んでいる記事はどれも」
 それこそとだ、レッグはクレンペラーにあらためて話した。それも怒りを露わにさせて。
「第九のことだね」
「如何にも」
 クレンペラーはベッドの中で得意げな笑みで話した。
「楽しんで読んでいるよ」
「何処が楽しんだね」
 レッグはクレンペラーに怒った顔で言葉を返した。
「君の言う通りに彼を君の代役にした」
「そうだね」
「そうしたらこの通りだ」
「散々だね、面白いよ」
「何が面白いんだ、もう君の推薦は受けないよ」
「これだけの騒動になったから面白いんじゃないか」
「面白い!?では君は最初から」
 ここでレッグはクレンペラーの人格を思い出した、とかく問題だらけだと。女好きで尊大で癇癪持ちで毒舌なだけではない。悪質な悪戯めいたことも実は好むのだ。
 それでだ、今回もだとわかった。
「こうなることを思って」
「はっはっは、話題作りにはなったね」
「なったが最悪の結果だ!とにかくもう君の推薦は受けない!」 
 レッグは病室で叫んだ、そのうえで怒って病室を出た。理性を保ることに彼の人生でこれまでにない程に努力をしつつ。
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