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黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
第六章

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「私が知っている場所に案内するから」
「だからですか」
「お金は私が用意するから」
 だからだというのだ。
「気にしなくていいわ、では行きましょう」
「それでは」
「はい、今から」
 二人でこう話してだ、そしてだった。
 紗耶香は女を自分が知っているホテル、銀座にある高級なそれの一つに入ってだった。ホテルマンと話をして。
 そこからすぐに部屋に案内された、それはホテルの中でも立派な部屋の一つであった。だがその部屋に女を入れて。
 紗耶香はよく冷やされたシャンパンを一本ずつ出しつつ自分の向かい側の席に座らせた女に話した。
「申し訳ないわ、スイートルームで」
「あの、スイートですよね」
「いつもはロイヤルスイートなのよ」
 その部屋を使っているというのだ。
「だからね」
「スイートではですか」
「申し訳なく思うわ、今そちらはとある国の要人がお忍びで来ている様で」
「先客があってですか」
「使えないわ、だからね」
「このお部屋ですか」
「そうよ、それでだけれど」 
 沙耶香は女にグラスの中のシャンパン、自分が入れたそれを差し出しつつ話しかけた。
「貴女、何かあったわね」
「それは」
「見てわかるわ、おそらく貴女は銀座で誰かとお話をしていた」 
 紗耶香自身もシャンパンを飲んでいる、よく冷えたそれを楽しみつつ飲みながらそのうえで話を進めていく。
「そしてその人に別れ話を持ち出された」
「・・・・・・・・・」
 女は俯いて答えない、シャンパンにも手をつけない。だが。 
 紗耶香は話を進めていった、まるでその沈黙が肯定であると見抜いているからこその様に。
「不倫の解消に。貴女はそのお話を切り出され彼に去られずっと一人で失恋の悲しみを忘れようと飲んでいた」
「どうしてそこまで」
「目と顔、唇の滓かな振るえでわかるわ」
 そうしたものでというのだ。
「言葉に出さずとも」
「それでもですか」
「私にはわかるわ。何時かはこの時は来るとわかっていてもその時が来ると心が痛む」
「それは」
「そうね、私は貴女達の様な人もよく見てきたわ」
 沙耶香はシャンパンを飲みつつ述べた、共に口にするものはなく今はシャンパンだけを楽しんでいる。
「だからわかるのよ」
「何を考えているのかが」
「今言った様に目と顔、唇の動きでね」
「そうなのですね」
「そしてね」
 紗耶香は女にさらに話した。
「不倫は忘れなさい、若し忘れないなら」 
「その時は」
「私が忘れさせてあげるわ」
 こう言ってだった、沙耶香は。  
 女の前に来てその唇に自分の唇を重ね合わせた、そうしてから。
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