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呉志英雄伝
第十話〜代償〜
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そんなこんなで桃蓮は一刻も早く本国へと戻ろうと考えたのだ。


「お待ちください」


しかしそんな彼女の言葉に異論を唱える者がいた。
江でもなく、冥琳でもなく、ましてや祭ですらない。


「何だ、黄祖」


桃蓮の視線の先には武人の姿があった。
そして彼は堂々と自分の考えを桃蓮へと告げた。


「戦を終えたのは今朝のこと。また将兵は夜通し作戦にあたり、その表情には疲労が見えています。少なくとも一日はこの地にて休息を取るべきではないかと」

「うむ、確かにのぅ…」


祭は黄祖の言葉に肯く。
彼の言う通りであった。今朝の作戦は昨日の昼には決まっていた。そこから今朝実行するという電撃作戦を展開するためには、かなり急速に準備をする必要があったであろう。
またそこまで無理を推してでも準備をしなければ、相手の虚を突くこともできなかった、ということも紛れもない事実である。
戦の最中は気分も高揚し疲労など感じることはないが、戦を終え、緊張の糸が切れた今ならばその限りではない。


「確かにそうではあるが…」


それでも桃蓮の答えは歯切れの悪いものだった。
その胸には一抹の不安を抱いていたのだ。その不安も漠然としたもので形を成さない。だからこそより一層不安を煽ることになっているのだ。
しかし桃蓮のような飛び抜けた直感を持たない者たちには、その不安を感じることもできなければ、桃蓮の焦りも理解できるものではない。
天幕内は黄祖の案に賛同する意見が大半を占めた。
もしここで桃蓮が反対意見を押し切ってでも撤退を宣言したならば、将兵はそれに倣っただろう。しかし桃蓮はそれをしなかった。せっかくの戦勝の雰囲気を台無しにすることは、彼女とて避けたかった。
結果的に黄祖の案が採用され、長沙への凱旋は一日遅れることとなった。











江には一つ疑問があった。
奇襲作戦が成功し敵総帥を討ち取ったころには、孫呉の陣近くに布陣していた一つの勢力が撤退を開始していたことだった。
普通自らが出し抜かれたと悟れば、無理にでも挽回しようと軍を動かすと思うのだが、劉表は城内から上がる火を見るや、将兵に撤退を指示した。
そして昼過ぎである今には、この地からはとうにその存在は確認できなくなっていた。
それでもこれは都合の悪いことではない。こちらが撤退を始めた時に彼の勢力が背後にいたとなれば、それだけで気を遣わなくてはならない。
そういった心配がないだけでも、孫呉にとっては好都合だった。
江の持つ『では何故劉表は背後から牽制するという手段をとらなかったのか』という疑問を除けば…











それから5日が経過した。
一晩休みを挟んだ孫呉の軍勢は、かなり
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