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ダブリンの猫
第二章

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「事実だぜ」
「全く、凄い事実だな」
「おう、それであんた今日は何時に帰るんだよ」
 猫は紅茶だけでなくビスケットも食べている、これが彼の朝食でそれを食べつつ緒方に尋ねた。
「一体」
「六時かな、帰ったら晩飯だよ」
「そうか、しかしあんた晩飯楽しんでないだろ」
「口に合わないからな、アイルランドの料理は」
 憮然とした顔での返事だった。
「それでだよ」
「それアイルランドだけじゃなくイギリスに来た日本人大抵言うな」
「喋る猫は信じられなくて料理は口に合わないな」
 緒方はネクタイを締めつつ言った、自然とダブルネックで締めている。
「正直、まあビールは飲めるからいいか」
「安く大量にな」
「痛風が怖いにしても」
「じゃあ今夜も飲むか」
「時間があったらな、しかし喋る猫はな」 
 また猫に対して言った。
「本当にいるとしたら妖怪でな」
「日本じゃそう呼ぶな」
「あんたも妖精だろ」
「妖精でも猫は猫だろ、さて俺も今日外出するからな」
 猫は赤い長靴を履いてそうしてだった。
 デューダー朝の頃の白い大きなカラーが目立つ青い貴族の服に長靴と同じ色の帽子を着てそのうえで言った。
「戸締りはしておくな」
「妖精の集会に行くのか?」
「猫のだよ、陛下が会議を開かれるんだよ」
「猫の王様か」
「それに出席しないといけないからな、まああんたより早く帰るからな」
 それでというのだ。
「晩飯は作っておくな」
「アイルランドかイギリスの料理か」
「そういうのに決まってるだろ、ここはダブリンだしな」
「そうか」
 嬉しくなさそうな返事だった。
「それじゃあ頼むな」
「ああ、期待してないな」
「さっき口に合わないと言ったな」
「そうだよな、まあ晩飯は待っていてくれよ」
「そうするな」
「それでビールがいいかエールがいいか」
「ビールがいいな、じゃあ行って来るな」
 緒方は最後にこう言った、そうしてだった。
 玄関を出て仕事に向かった、その時に同居人になっている喋る猫に行ってきますと言うことも忘れなかった、彼が部屋に入る前からその部屋に住んでいて普通に喋っている彼に対して。名前であるヘンリーという名前も呼んでそうした。


ダブリンの猫   完


                2020・2・5
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