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「ほら、キリトくん! ほんとに寝落ちしちゃうよー」

 ゆさゆさ、やさしく揺さぶられる。ああ、そういえばアラームもかけずに揺り椅子で眠りこけた時は、こうやって起こしてもらったなぁ、とのんきに考えつつ意識をゆるゆる浮上させる。

「もお……ユイちゃんのサンタさん、一人でやっちゃうよ?」
「……そ、それはないだろ!」

 耳元から聴こえた声に、飛び上がる。
 あんまりに安らかなのでまどろんでしまったようだ。

「ふふ」

 アスナは体重を感じさせない動きで椅子から降り、ぐっと背を反らした。

「……」

 背をそらすアスナの、すこしだぼっとした麻の普段着。それでも隠しきれないみごとなスタイルに、自然と目が行ってしまった。
 アスナに気がつかれたらハラスメントを訴えられるかもしれないが、それも仕方ないと思う。
 新婚時代に何度も睦み合ったのはこの家なのだ。一つや二つ……いや、三つや四つ、それ以上、アスナと愛をかわした記憶が残っている。

 思わず手を伸ばそうとして失敗した。

 俺は思わず苦笑する。起き上がろうとしたときに、左腕がひっかかる――やすらかに眠る、愛娘のことを忘れていた。

 寝入ったユイを抱いて二階にあがり、普段使用しているものとは別の寝室に彼女を寝かせた。
 アスナが愛おしそうにユイの頭をなで俺に視線を送ってくる。
 俺はメイン・メニュー・ウィンドウを開いた。
 アイテムストレージを開いて、オブジェクトを実体化させる。
 青い滴滴型のアイテムが手の中に出現する。月の光をきらきらと反射させる、俺やアスナには小さすぎるペンダント。プライベート・ピクシー用のアクセサリーだ。
 ALOのキャンペーンで配布されたプライベート・ピクシーの数はプレイヤーの数に対して、極少といっても良いほど少ない。再配布もおこなわれず、譲渡も不可能なプライベート・ピクシーはALOの稼働が長くなるにつれ、絶対数を減らす一方なのだが、その専用装備もまた、極少ながら存在している。
 その存在をエギルから聞かされた俺とアスナは、ペンダントをサンタクロースのプレゼントにすることを思いつき、ユイの目を盗んで――これが一番大変だったのだが――ALO中をかけまわりこのペンダントを入手した。数日後に引退する、というALO古参プレイヤーは不思議そうな顔をしながらも、快くペンダントをゆずってくれた。

 よろしく、と目線で伝えてアスナにペンダントを手渡した。アスナは小さくうなずくと、ユイの眠っているベッドサイドにペンダントを置き、もう一度黒絹のような愛娘の髪をなでつけた。

 部屋の明りを消し、寝室を出た俺たちは自然とお互いの腕をからませていた。
 甘やかな空気に俺はついついつぶやいてしまう。

「……俺たち本当に親子だな」

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