第六章
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「本当にな」
「じゃあ僕も」
「ああ、おじさんの歳になったらな」
「甘く感じないですか」
「ほろ苦いってな」
そうした味にというのだ。
「感じる様になるさ」
「わからないですが」
「今はわからなくてもな」
それでもというのだ。
「わかる様になるんだ」
「そうですか」
「そしてわかる様になればな」
その時はというと。
「その時君もおじさんだ」
「おじさんみたいに」
「そうなってるさ」
こう言ってだ、山田は散歩を続けた。少年は彼のその背中を見続けていた。だが彼の姿が見えなくなると遊びに行った。
そして四十年後成長し就職し結婚をして家庭を持った彼はバレンタインの日が来てすっかり肥満した身体で言った。
「健康診断で糖尿病に気をつけろって言われてるしね」
「だからですね」
「チョコレートはですね」
「食べないよ、昔はね」
その脂肪で満ちた腹をさすりつつ笑って部下達に話した。
「もててチョコもね」
「食べ放題でしたか」
「そうでしたか」
「そうだったんだけれどね」
今はと言うのだった、そうしてチョコは食べないことにした。
「仕方ないね」
「糖尿病怖いですからね」
「一回なったらなおらないですし」
「ならない様にしないと」
「だからね、今年は食べないで」
そしてというのだ。
「ダイエットはじめようかな」
「そうされますか」
「部長も」
「これからは」
「そうするよ、健康の為にね」
妻や子供達にも言われているしとだ、心の中で言ってだった。
彼はチョコレートに背を向け毎日ジョギングや水泳に精を出す様にした、そして子供の頃山田に言われたことを思い出してこういうことかと思うのだった。
おじさんのバレンタイン 完
2020・1・30
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