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おじさんのバレンタイン
第一章
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               おじさんのバレンタイン
 山田賛平はバレンタインと聞いてその話をした部下達にこう返した。
「ホワイトデーのマシュマロの用意しとくか」
「ってそれだけですか?」
「いや、部長味気無さ過ぎですよ」
「本当にそれだけですか」
「もうホワイトデーの話ですか」
「会社の女の子達から義理チョコ貰ってな」
 山田はそのいかつい顔で言った、八条建築で今も肉体労働をしているだけあって非常にしっかりした身体をしている、大柄な身体に前から見事になくなった髪の毛と太い眉にきりっとした目元には皺があり唇から見える歯にはヤニが見える。
「家でも母さんと娘から貰うだろ」
「って結構貰ってますよね」
「いいじゃないですか」
「それでもですか」
「もうホワイトデーのお話しますか」
「事実だろ、本命なんかあるか」
 山田は部下達にこうも言った。
「今更な」
「そんなのないですか」
「部長位のお歳になると」
「そうですか」
「ある筈ないだろ」
 それこそというのだ。
「実際にな、だからな」
「それで、ですか」
「もうそんな風ですか」
「部長位になると」
「そりゃ俺だってな」
 山田は事務所でサインをしつつさらに言った、今も肉体労働をしていても部長位になるとこちらの仕事も多いのだ。
「若い頃は違ったさ」
「本命とか貰ってですか」
「幾つ貰えたとかはしゃいでましたか」
「そうでしたか」
「ああ、そうだったさ」
 昔はというのだ。
「高校生の時とかな、けれどな」
「今はですか」
「そんなのもなくて」
「貰うのは義理ばかりで」
「後はホワイトデーですか」
「その時のことを考えるな」
 味気なく言うのだった。
「実際に」
「ううん、もうですね」
「乾いてますか」
「そうなっていますか」
「そうだな、もう歳を取るとな」  
 実際に年齢を感じさせる言葉だった。
「そんなものだよ」
「バレンタインみたいな日もですか」
「味気ない日ですか」
「もうホワイトデーのことを考える」
「そんな日ですか」
「というかな」
 山田は部下達にこうも言った。
「俺位の年齢になるとな、五十代にもなると」
「そうなるとですか」
「五十代にもなると」
「そうした年齢になるとですか」
「歯も悪くなるしあちこち身体も悪くなってな」
 そうなってというのだ。
「糖尿病の話も出るだろ」
「ああ、それですか」
「糖尿病ですか」
「あの病気になったら甘いもの食べられないですね」
「そうなりますね」
「それにもなるからな」
 だからだというのだ。
「食えなくなる人も出て来るんだよ」
「世知辛いですね」
「病気がありますか」
「あと歯もですか」
「歳を取ると」
「俺も何度か虫歯
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