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包青天
第一章
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               包青天
 額に三日月の痣がある極めて色の黒い男だ、包拯はその外見でも知られていた。
 だがそれ以上にだ、宋の者達によく知られていることがあった。
「あの方がおられる限り大丈夫だ」
「天下の法は守られる」
「宋で正義が保たれる」
「悪は必ず暴かれる」
「汚い金なぞ通じない」
 即ち賄賂もというのだ。
「あれだけ正義の為におられる方はおられない」
「あの方のお裁きは間違いがない」
「無実の者はその潔白を明かされる」
「そして隠れている悪人が見付け出される」
「そのうえで裁かれる」
「あの方がおられてこそよ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 包拯は宋の者達に深く慕われていた、厳めしい顔で笑うことはなく厳格極まる人物であったが清廉潔白で罪を明らかにし正義と法から外れることがないので誰もが彼を慕っていた。だが今彼はというと。
 難しい問題に直面していた、包拯に仕える官吏達は赤い官吏の服と冠を身に着けて席に座して文を開いている彼に口々に言っていた。夏の暑い時なので皆汗をかきそれに困りながらである。見れば包拯も汗をかいているが彼はその汗もものとはしていない。心頭滅却すればは後の日本の言葉だが彼もだった。
「駄目です、一切です」
「どれだけ調べてもです」
「証拠となるものはありません」
「それも一切」
「そうか、だがだ」
 包拯は難しい顔のまま官吏達に言った。
「永進殿が殺されたのは事実だ」
「はい、そのことは間違いありません」
「頭の後ろを何かで思いきり殴られてです」
「そのうえで死んでいました」
「これは殺されています」
「そのことは間違いありませぬ」
「そうだ、その傷は間違いない」
 殺された者は宦官だった、皇帝後に仁宗と呼ばれるこの皇帝の覚えめでたく学もあり清廉潔白であり包拯と共に宮中の風紀にあたっていた。
 だがそれだけに宦官の間それも賄賂を好む者達から嫌われ命を狙われていた、そして彼を殺した者もだ。
 包拯は既に持ち前の鋭さで突き止めていた、それが誰かもここで言った。
「永進殿を殺したのは元輔殿だ」
「あの御仁は何かと悪い噂が尽きませぬな」
「賄賂を好み身内ばかり贔屓する」
「万歳翁の前に出る様になるまで多くの人を陥れていたとか」
「とかく黒い話が多いです」
「そうした御仁です」
「あの御仁で間違いない、しかしだ」
 それでもと言うのだった。
「あの御仁は確かな事実を突き付けなくてはな」
「知らぬ存ぜぬですな」
「それで通しますな」
「このまま」
「うむ、まあ世の中事実を突きつけてもそれでもシラを切り言い逃れや罪の擦り付けを行う者もいるがな」
 包拯はこうした者も知っている、世の中にはそうした域にまで堕している輩も存在しているということを
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