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だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
『霊長類 浅倉南へ』な話
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「おー、ここよく見えるじゃん」

 肩には彼の手のひら、背中には彼の腕が乗っている。その感触も心地よい。
 数秒経つとそれは外されたが、今度は両肩をがっしり掴まれ、強引に四分の一回転させられた。
 向い合わせになる。

「また機会あったら見てくれよな!」

 満面の、笑み。

(……)

 こっそり観戦していたことを突っ込んでくることもなく。
 不自然な変装をしていることを訝しんでくることもなく。
 ただただ、笑顔を向けてくれる。

 なんてシンプルで。
 なんて眩しいのだろう。

 首や肩に感じた粗暴さと大雑把さも。
 組みつかれてからほのかに感じていたユニフォームの土の匂いも。
 とても気持ちがよかった。

「本当に友達なの?」

 横でふたたび同じセリフを呟いていたマネージャーの声は、もはや総一郎の耳に届くことはなかった。



 * * *



 総一郎の学校をあとにした隼人は、列を作って歩くチームの後ろのほうにいた。
 電車移動だったので、向かう先は最寄りの駅である。

(そういえば、違うとは言われなかったな)

『俺のプレー、見にきてくれてたんだな』

 今思えば、総一郎が試合を見ていたのは、ただの自校の応援や、何か他の用事があってたまたま、という可能性もあった。
 だが否定されなかったということは――。
 自分のプレーを見るために、彼はわざわざ来てくれたということになる。

(うれしいなあ)

 ニヤニヤ。

(眼鏡外した顔も見られたし)

 なぜ外していたのかまではわからなかったが、彼の眼鏡なし姿も初めて見ることができた。それも大きな収穫だった。

「隼人、機嫌がいい」

 ボソッと横でつぶやいたのは、マネージャー・日毬(ひまり)である。

「ん、そりゃ勝ったからな」
「怪しい。それだけじゃない気がする」
「……それだけだぞ?」
「本当?」
「本当だぞ?」

 ゆるむ口元はとまらない。
 疲れているはずの足も、どんどん弾む。

「怪しい」

 横でふたたび同じセリフを呟いていたマネージャーの声は、もはや隼人の耳に届くことはなかった。



 * * *



 その日の夜。
 総一郎は日課の勉強を終えると、ベッドの布団の中に入った。

 仰向けになると、ちょうど音が鳴った。スマホだ。

(LINEか。お、隼人君だ)

『今日はサンキュー』という彼のメッセージから始まり、メッセージで会話を交わしていく。

(なるほど。マネージャーがボール探しから帰ってくるのが遅かったから、隼人君も探しに来たということなのか。普通はうちの学校の部員が探すものだと思うが、打ったのは彼だったから
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