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酔詩人
第三章

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 彼は自分の詠うべきことを思いのままに歌った、それも包み隠さず。そうして多くの詩を詠いカリフから多くの褒美を得たが。
 その褒美を得るとその足で酒場に入り女のところにも行った、朝から酒を飲み色も楽しんだ。それで世の人々はまた言った。
「変わらないな」
「全くだ」
「宮廷に入ってもこれか」
「カリフ様に認められても」
「酒は止めないか」
「色も」
「止めるものか」
 これがヌワースの返事だった。
「私にとってはどちらも欠かせないものだからな」
「だからか」
「これからも飲んでか」
「そして色も楽しみ」
「そのうえで詠うのか」
「私は戦いには興味がないが」
 こちらはヌワースの全く興味のないことだった。
「剣も盾も使い方を知らない」
「持ったこともない」
「そうだというのか」
「そうだ、私はそんなものはだ」
 それこそという返事だった。
「全く興味もなければ考えたくもない」
「詩人でもか」
「詩人は戦いを詠うものだが」
「そういえばあんたは戦いを詠わないな」
「酒や色ばかりで」
「だから興味がないのだ、興味がないならだ」
 それこそというのだ。
「詠うものか」
「だから戦いを詠わないのか」
「詩人でも」
「そちらは詠わないか」
「これからも詠う筈がない」
 ヌワースは言い切った。
「何度も言うぞ」
「そうなのか」
「そしてこれからもか」
「飲んで色を楽しんでか」
「そうしてか」
「そうしたものを詠うか」
「そうする、これからもな」
 こう言って実際にだった、ヌワースは詠い続けた。そうして時には宮廷でハールーンや彼の周りで鋭い人間観察から機知も披露してみせた。その彼にハールーンは話した。
「そなたを宮廷に迎え入れてよかった」
「私の詩はそれだけの価値がありますな」
「それだけでない」
 ハールーンは彼に笑って答えた。
「その機知もまただ」
「よいですか」
「だから言うのだ、そなたは必ず名を遺す」
「詩人としてだけでなく」
「その酒と色と散財にもよるが」
 奔放な詩だけでなく、というのだ。
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