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漢の意地
第六章
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「そうか、全てはか」
「終わった」
 元の者は文天祥に静かに答えた。
「何もかもな」
「万歳老は立派なお最期だったのだな」
「陸秀夫殿もな」
「そして張世傑殿もだな」
「宋が滅ぶならこの船を沈めろと言われたそうだが」
 それがというのだ。
「実際にだ」
「そうか」
「それで貴殿はどうする」
 元の者は彼にあらためて問うた。
「私が言った通りにだ」
「宋は滅んだ」
「降る様に文を送る様に勧めても断ったが」
「そうだな、しかしだ」
「それでもか」
「私の心は同じだ」
「やはり降さないか」
「何があろうともな」
 決してと言うのだった。
「私は降らない、そしてだ」
「殺したければか」
「殺せ、宋が滅んだなら意味はない」
 生きているそれがというのだ。
「だからだ」
「そうか、しかしな」
「それでもか」
「万歳老は貴殿の才覚はわかっておられる」
「だから元の丞相となりか」
「左丞相だ」
 左右あるがそのうちのそちらだというのだ。
「どうか」
「宋では右丞相だ」
「丞相の上位はな」
「元では左丞相だったな」
「そちらにと仰せられているが」
「私は宋の右丞相だった」
 これが文天祥の返事だった。
「ならわかってもらう」
「やはりそう言うか」
「私はな」106
 こう言って降らない、だがそれでもフビライは文天祥を殺さなかった。それで宮中でも彼を認める声は高く。
 仕えないのなら隠棲することを条件に牢から出してはとうかという意見も出て来ていた、それでフビライも仕えぬのならと考えたが。
 ここでだ、フビライはかつて宋だった土地の状況を聞いて言った。
「あの者が生きているからか」
「はい」
 その為にとだ、報告する臣下が述べた。
「長江から南で我が大元に不穏な動きが出ています」
「そうなのか」
「そうした状況です」
「あの者が生きているとか」
 フビライは苦い顔で述べた。
「そうなるか、では」
「はい、それでは」
「あの者は」
「決めた」
 それではとだ、フビライもだった。
 決断せざるを得なくなった、それで遂に命じた。
「あの者の望む様にしてやれ」
「そうします」
「それでは」
 宮中の者達も頷いた、そうしてだった。
 文天祥は死罪となった、彼は刑場において南つまり宋のあった方を排してから刑を受けた。クビライは彼の死のことを聞いてこう言った。
「あの者は真の男子だったな」
「最後の最後まで宋を想っていた」
「忠義を尽くした」
「そうした者でしたな」
「あの者を讃えることは一切咎めぬ」
 敵であった宋の者であり宋に忠義を尽くして死んだ者であるがというのだ。
 実際に彼の名は歴史の書に残りそのうえ元でも彼を讃える声は止まらなかった、彼が残し
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