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怨恨
第五章

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「私はそのことをずっと覚えていたんだよ」
「ずっとって」
「痩せようって決意してから今までだよ」
 つまり四半世紀の間というのだ。
「ずっと覚えていたんだよ」
「私が言ったことを」
「他の奴が言ったこともだよ、おい山県」
 由美は今度は自分の前の席にいるやはり高校時代と比べるとかなり太った彼を指差して憎しみに満ちた目で言った。
「お前私が歩くと地震が起こるって言ったよな」
「えっ、俺そんなこと言った?」
「言ったよ、お前私が傍歩いたら言ったな」
 やはり覚えがない彼に言った。
「マグニチュード八とかな」
「だからそんなこと言ってないよ」
「言ったよ、お前も覚えてないんだな」
「そんな昔のこと」 
 四半世紀も前のことはというのだ。
「とても」
「お前にとって昔でも私にとっては今なんだよ」
 目が燃えていた、憎悪の炎に。そのうえでの言葉だった。
「生々しいな」
「ちょっと天霧さんいえ東さん」
 クラスの女子の中心人物だった音早百合が止めに入った。
「今は同窓会だから」
「だからっていうんだな」
「そう、楽しく飲みましょう」
 こう言って宥めにかかった。
「そうしましょう」
「お前私が食堂でコロッケ食ってる時に何言った」
 由美はその早百合にも言った。
「通りがかってそんなもの食ってるから太るって言ってくれたな」
「そんなこと言わないわよ、私コロッケ好きだし」
「それでも言ったんだよ、私にな」
 早百合にも憎悪に満ちた目を向けていた、そのうえでの言葉だった。
「馬鹿にしきった顔でな」
「人を馬鹿にするなんて」
「していたよ、それ以来私はコロッケ食べてないんだよ」
 由美はこのことも言った。
「脂っこいものもな、太るからな」
「好きなら食べればいいじゃない」
「お前に言われてから食べなくなったんだよ」
 止めるつもりが追い詰められだした早百合にさらに言った。
「太るからなんだよ、全部」
「あの、傷付いたなら」
 早百合は負けを認めて目を伏せて由美に話した。
「御免なさい」
「謝って済むか!」
 これが由美の返事だった。
「お前等に言われて私は痩せようと思ってずっとトレーニングして食べるものも飲むものも考えているんだよ!」
「そ、そうだったの」
「そうだよ!そこにいる宮崎!」
 髪の毛がバーコードになって腹がパンパンの男も指差した。
「デブは脂でそのうち禿げるって私に言ったな!」
「俺言った!?」
「言ったよ!それでお前今どうだ!」 
 その彼には今にも挑みかからんばかりだった。
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