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勇者たちの歴史
西暦編
第十話 リミテッド・オーバーB
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 神樹の防衛機構は大きく三つに分けられる。
 一つは、四国全域を囲う結界。これはバーテックスの侵入を阻む防壁であり、海上に視認できる樹木の壁から上空及び地下まで不可視の領域を構築している。
 一つは、適正ある人間への加護。『勇者』と呼ばれる者の力は神樹からもたらされたものであり、この加護なくして人類はバーテックスに抗うことはできない。バーテックス対抗組織・大社の手により、この加護を更に呪術的・科学的に効率化と増強を果たしたものが勇者たちの用いる『勇者システム』である。
 そして、最後の一つが――神樹が外敵から人々を守るため、バーテックス侵入時に行われる現象。結界内のあらゆるものが停止し、程なく樹海で覆い尽くされる。
 大社はそれを『樹海化』と呼んでいる。



「ぐッ……!?」

 体勢を崩した勇者にバーテックスが襲いかかる。
 大きく開いた顎が獲物を捕らえる前に、

「そりゃぁぁぁぁぁッ!!」

 ゴッ!! と鈍い音が響き、旋刃盤が突き立った巨体が消滅する。
 すぐさまワイヤーを手繰る球子の手際に淀みはない。もはや手足に等しい愛武器を振りかぶりつつ、

「どうすんだコレ!! 全然、キリないぞ!!!!」
「……そんなに怒鳴らなくても、十分聞こえるわよ」

 無限に思える物量の敵にうんざりした声を上げていた。
 隣にいた千景も、何度目かの大声に顔を顰めながらも内心同じ気持ちだった。それは、後方でバーテックスを狙撃している杏も、最前線で拳を振るっている友奈も同じに違いない。
 樹海化が起きてから二時間以上が経過して――未だ、彼女たちの視界はバーテックスの大群で埋め尽くされているのだから。

「でも! さっきみたいな強そうなのは! 全然、出てきてないね!!」

 ラッキー、とポジティブな捉え方の友奈も、流石に疲れが動きの端々に滲み出ている。

「温存しているのかもしれません。攻め過ぎず、常に警戒していきましょう」
「大丈夫よ、伊予島さん……二人とも、今のところ無茶はしてないわ」
「……千景さんも、無理しないでくださいね」

 樹海化直後は恐怖に震えていた杏も、訓練時と変わらない的確な援護と指示で戦線を支えている。ともすれば戦えないのではないかと心配していたが、それも杞憂に終わり変則的ながらも練習してきたフォーメーションを維持できていた。
 その彼女の気遣いに、千景は微かに?を緩めた。

「ありがとう。でも、これは私にしかできないことだから」

 七人御先。その力を宿すことで、千景は七つの場所に同時に存在することができる。
 伝令役を兼ねた前衛に五人、後衛の補助に二人の配置。勇者を一人欠いた戦線を維持するための苦肉の策だったが、バーテックスの攻勢を分散させ予想以上に効果を上げていた。
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