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曇天に哭く修羅
第一部
狂気
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紫闇はシンデレラの話を思い出した。

魔女と出会い変身する。

彼女は魔法の力でお姫様になったのだ。

紫闇は自分もそんなお話のように変われるのだと少し前までは信じていた。

しかし世の中は甘くない。

彼は現実の中に居る。

今も体の隅から隅まで丹念に入念に念入りに破壊され尽くしている最中。

それを回復させてまた破壊される。


「控え目に言って地獄だし、まともじゃ居られないよね。黒鋼や僕等みたいな人間以外は。この環境を耐えられたら常人じゃない」


二人の組み手を眺めるレイアの前でちょっとした、しかし大きな問題が発生していた。

紫闇が攻撃に目を(つぶ)る。

無条件にだ。

防御がままならない。

『イップス』や『パンチアイ』だろう。

しかし焔には知ったことではない。

彼に対して投げを使い、地面に叩き付ける。

すかさず寝技に入り、腕ひしぎ十字固めを極めて体重を乗せ、肘に負荷を掛けていく。

関節が(わめ)き靭帯が鳴く。

恐怖で紫闇の口から懇願(こんがん)が飛び出す。


「やめてくれえぇぇぇぇぇ───ッッッ!!!」


その声に焔が動きを止めた。

彼女は直ぐに立って構える。


「続きだ」


紫闇は震える体を起こせない。


(逃げるのか?)


彼の脳内で自問が反響し(こだま)する。

もう二度と逃げないと誓ったのに。

また繰り返してしまうのか。

しかし叱咤(しった)に心身が応えない。


「もう、嫌だ……」


紫闇は我慢できなかった。

この日はこれで終了となる。


「解るよ。でもこれを乗り越えられないのなら紫闇が憧れている大英雄《朱衝義人(あかつきよしと)》の域まで辿り着くことは無い。紫闇は今まで負けて、逃げて、這いずり回ってきた。後は勝って上へ登るだけなんだ」


レイアは頑張れとは言わない。

もちろん強要もしない。

結局は本人次第なのだから。

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