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アリーの死
第四章
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「殺せ!」
「これ以上はないまでに惨たらしい処刑で殺せ!」
「我等のカリフを殺したのだ!」
「それに相応しい報いを与えてやれ!」
 口々にこう言い八つ裂きにせんばかりの剣幕だった、だがその中で一人だけ冷静な者がいた。それは誰かというと。
 他ならぬアリーだった、アリーは死相を浮かべながらも極めて落ち着いた様子で憤怒の相を浮かべる側近達に介抱されつつ告げた。
「一突き以上は許さぬ」
「この者にですか」
「刺客にですか」
「そうだ、それ以上は駄目だ」
 こう言うのだった。
「私も一突きを受けただけなのだから」
「では」
「その様に」
 側近達が頷くのを見るとアリーは首を落とした、ここで彼はアッラーの前に旅立った。
 刺客は彼の最期の言葉通り一突きで処刑された。
 このことはすぐにダマスカスのムアーウィアの下にも伝わった、ムアーウィアは最大の政敵であるアリーが死んだと聞いて一族の者達に話した。
「全てはアッラーの思し召しだ」
「はい、そしてですね」
「ムアーウィア様の読み通りでしたね」
「何もかもが」
「そうだ、奴等は私のところにも来たが」
 アリーに反旗を翻した者達はだ、第三勢力として彼の命も狙ったのだ。アリーを殺したがそもそも彼がムアーウィアと和睦したことに反発したので彼も殺そうとしたのだ。
「私は逃れることが出来た」
「用心深かったので」
「だからですね」
「命を狙われるならだ」
 それならばというのだ。
「豹や狐は用心深くなる、しかし獅子や狼は違う」
「常に堂々としている」
「それがアリー殿であり」
「それで、ですね」
「この度はですね」
「命を落とした、こうして私はカリフとなる」
 最大の政敵であるアリーが死んだ今というのだ。
「何の障害もなくな」
「左様ですね」
「我々は勝ちました」
「アッラーはムアーウィア様を選ばれました」
「有り難いこと、しかし」
 ここでだ、ムアーウィアはこうも言った。ふと神妙な顔になり。
「アリー殿の死の場面は聞いたが」
「見事ですね」
「お話を聞く限り」
「左様ですね」
「そうだ、実に彼らしくそして見事だ」
 敵であろうともとだ、ムアーウィアは言うのだった。
「彼のそのことは忘れないでおこう」
「左様ですね」
「敵ながら見事でした」
「見事な勇者でした」
「そのことは讃えよう」
 こう言うのだった、敵であった彼のことを。
 アリーは確かに死んだ、だがその死もそれまでの高潔な人柄も歴史に残り今も讃えられている。彼を支持する者達は今もいてシーア派というイスラムの一方の宗派にもなっている。そのアリーの死はこうしたものであった。歴史を見る限りそれは彼らしいものであったと言えるであろうか。


アリーの死   完



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