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燠火
第二章

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 炭の火はしっかりと消し続けた、けれどそんな中で大学に入ってからもこのお店で働かせてもらっていると高校入りたての新入りの子が私にこんなことを言ってきた。
「炭火使うよりもですよ」
「ガスとかなのね」
「あれ切ったら終わりですから」
 ガスの栓をというのだ。
「余計に安全ですよ、最近は電気の高熱もありますし」
「そういうのじゃ美味しくないから」
「だからですか」
「そう、うちじゃね」
 このお店ではとだ、私はその娘に話した。
「炭火なのよ」
「そうなんですね」
「本当に味が違うから」
「同じ鰻使ってもですか」
「違うのよ」
「そうなんですか」
 こんな話をしたらだった、すぐに。
 このお話を何処かから聞いたご主人が私達に言ってきた。
「今から俺の家の台所で普通のガスコンロで焼いた鰻と店で炭火で焼いた鰻を両方食わせてやるからな」
「どっちもですか」
「そうしてくれますか」
「そうしたらうちがあえて炭火使ってるのがわかるからな」
 それでと言ってだ、そうしてだった。
 ご主人は早速二種類の鰻を私達に出してくれた、お代は賄いだから別にいいと言ってくれてのことだ。
 私も先輩も新入りの娘も両方の鰻を食べたけれど。
 すにだ、私達は驚いて言い合った。
「炭火の方がね」
「ずっと美味しくて」
「香りも独特で」
「もう断然こっちで」
「炭火で焼くしかない様な」
「本当に」
「そうだろ、だからうちは炭火なんだよ」
 ご主人は私達に確かな笑顔、所謂ドヤ顔で言ってきた。
「この味が出せるからな」
「それなら焼くのに時間がかかったり火を気にしてもですね」
 新入りの娘が一番美味しいという顔だった、その顔でご主人に尋ねた。
「炭火なんですね」
「そうだ、じゃあな」
「これからもですね」
「炭火でいくからな、その訳がわかったな」
「はいっ」
 新入りの娘が頷き私も先輩もだった、そうしてだった。
 私達は炭火の後始末をしっかりとしていった、それだけの価値があるものとわかったからだ。それだけ炭火が焼いた鰻は美味しかった。食べてみてこのことを誰よりも実感したからこそ。


燠火   完


                 2019・4・3
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