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奇妙な果実
第四章

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「酒に麻薬か」
「色々精神的に大変だっただろうしな」
「それでか」
「ああ、しかしな」
「それはな」
 どうにもとだ、私はまた話した。
「本当にな」
「破滅への道だな」
「実際にああなったしな」 
 若くして世を去った、四十四歳だった。歌手として一時代を築き歴史にも名を残したけれど若くして世を去った。
「そう思うとな」
「本当に残念だな」
「全くだよ、ドラッグに酒に」
 私はまた思った。
「煙草もな」
「煙草な、昔はな」
 それこそだ。
「皆吸ってたけれどな」
「身体に悪いことはな」
「事実だからな」
「特に歌手が」
 歌う、喉を使う人達がだ。
「煙草を吸ったらな」
「いい筈ないよな」
「今ホリディがいて歌手だったら」
 本来のジャズの歌手でもだ、私は心から思った。
「そこはしっかりして欲しいな」
「心から思うな」
「そのことは」 
 そう思うしかなかった、そして。
 私はコーヒーを飲み終えて友人に話した。
「コーヒーも飲み過ぎるとな」
「よくないしな」
「ああ、胃によくないしな」
「尿道結石にもなりやすいしな」
「程々でないとな」
「ましてや酒だと」
「余計にな」
 ドラッグは論外にしてだ。
「そう思うとな」
「節制しないとな」
「冗談抜きでそうだよな」
「そしてずっと歌って欲しいな」
「折角あの頃のアメリカとは違ってるんだ」
 アフリカ系のトップ歌手なんかそれこそ幾らでもいる、マイケル=ジャクソンやスティービー=ワンダーもその中にいる。ルイ=アームスロングもだ。
「差別はまだあっても」
「それでもな」
「あの頃とは全く違うんだ」
 クランが幅を利かせていた時とはだ。
「ちゃんと生きられる」
「大統領にだってなった」
「努力すれば普通に身を立てられる」
 大学に行けなくても仕事で頑張っていい暮らしだって出来る、それだけでも当時とは全く違う。南部やハーレムだけがアフリカ系の世界じゃなくなっている。
「野球もバスケもアメフトも出来るんだ」
「そうした世界にする為に貢献してくれた人だけにな」
「余計に今いたらな」
「節制してな」
「ずっと歌って欲しいぜ」
「奇妙な果実を歌わなくても」
 それでもだ。
「そうなって欲しいな」
「ああ、しかしあの歌はな」
 友達は考える顔になって私にこんなことも話した。
「あの時代だからだよな」
「出て来たか」
「クランとかが暴れていてな」
「アフリカ系へのリンチも問題になっていて」
「問題にならないことがな」
 差別にしてもだ。
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