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呉志英雄伝
第七話〜蒼〜
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たところで時既に遅し。獰猛な虎は慌てふためく獲物を見逃したりはしない。


「その辺をゆっくり聞かせてもらおうかしらね」









今から三年前のことだ。
揚州のとある村が賊に襲撃された。当然村人は抵抗したが、悲しいことに武の心得のない者ばかり。救援を求めようにも、その土地には領主がいなかった。結果早々に村は制圧された

男は皆殺しにされ、女子供は野蛮な者共の慰みの道具として扱われ、心が壊れた者は畜生のように殺されていった。

慰み者となった女子供が次々に精神を病み、一人一人余興として殺される中、ある一人の女は、例え身を犯されようとも屈さず、正気を保っていた。
死にたくない一心で。 毎日のように嬲られようとも、女は屈さなかった。

そして村が落とされてから二月が経過した朝、女は異変に気づいた。
誰も来ないのだ。そして外では喧騒と剣戟が響いているのだ。どうやら賊は何者かと戦っているようだった。
監視もいず、好機だと察した女は、もう襤褸切れとなっていた自らの衣服を被って必死に逃げ出した。逃げる途中、賊と赤い鎧の兵が戦っているのを見た。
赤い鎧の兵士たちはたちどころに賊を切り捨て、突き殺し、蹂躙していった。
断末魔を上げる賊たちを尻目に女は必死で走った。赤い鎧の兵士たちが味方である確証がなかったから。

と、突然女は肩を掴まれた。振り返るとそこには賊の頭領がいた。その傍らには馬があり、それが逃亡するためのものであることは容易に想像できた。
賊の頭領は暴れる女を縄で縛りつけ、乱暴に馬に乗せると自分も馬に跨った。女は覚悟した。もう終わりだと。
馬は走り出し、根城の景色がどんどん小さいものへとなっていく。女は最早茫然自失であり、絶望していた。


ふと賊の頭領は叫び始めた。
先ほどまでの下卑た笑みが、恐れおののいた表情へと変わっている。そして前方に向かってしきりに罵声を浴びせているのだ。
女は無気力に下げていた頭をもたげ、前方を見やった。

そこには一人の男が立っていた。
ただ赤い直垂を着、鼻まで赤い布で覆い、赤い髪を風になびかせたその者は馬の進路上に悠々と佇んでいた。
肩には身の丈以上の大剣を担いでいる。


馬がその者を蹴り殺そうとした刹那、女の体は宙に浮いた。一瞬のことなのにやけにゆっくりに見えた。
馬の首から上が宙を舞い、体躯は後方へと仰け反っていた。そして女はもちろん、賊の頭領もその身を投げ出されていたのだ。
賊は受身を取れぬまま、大地に叩きつけられ、女も同様になると覚悟し、来る痛みに備えた。
しかし痛みを感じることはなかった。代わりに何かに抱きとめられる感触がした。赤い髪の男が受け止めてくれたのだ。
一瞬の出来事に唖然とする女。そんな女に、その者は目で示した。

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