第三章
[8]前話
しかし二人の冷たい視線には全く気付かずだ、平気な顔のままだった。
二人は子供達にいい人について学ぶ様になった、しかし彼等の父の様になれとは全く言うことはなかった。
その逆にだ、こう言った。
「いい?自分のものは自分で手に入れなさい」
「間違ってもその辺りに落ちている様なものを食べては駄目よ」
「確かなものを手に入れて食べなさい」
「どんな時でもね」
彼等の父のことは言わなかった、そしてだった。
二人は自分達の夫が死んだ時だ、子供達に冷たい声で言った。
「供えものはいいわ」
「これからもね」
「そんなものはいらないから」
「あの人にはね」
「一切いいから」
「気にしないでね」
「ですが」
子供達はそれぞれの母達に問うた。
「父上です」
「ですからやはり」
「お墓にはです」
「供えものは」
「構いません」
二人の返事は変わらなかった、厳然とさえしていた。
「何度でも言います」
「あの人の供えものはいりません」
「生きていた頃にあれだけ楽しんだのですから」
「もう本望でしょう」
「生きていた頃といいますと」
「それは」
子供達はそれぞれの母の言葉に怪訝な顔になった、だが。
二人はその母にこう返すだけだった。
「何でもありません」
「気にすることはありません」
「ただ供えものは不要です」
「そのことだけは言っておきます」
あくまでこう言うだけだった、そして。
子供達には墓に供えものもさせずだった。
「あの人の為に参ることもありません」
「他のご先祖の方の為に参りなさい」
やはりこう言うだけだった、それでだった。
二人は夫だった者には供えものもせず、彼の為に参ることもしなかった。それは徹底していた。
それが何故なのか二人は最後まで語ることはなかった、だが後世にこの話は伝わっている。この様な愚かで卑しい者がいたということを。二人が語らずとも見ている者は見ていて書き残していたということか。
卑しい男 完
2019・3・11
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