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自然地理ドラゴン
三章 天への挑戦 - 嵐の都ダラム -
第38話 ドラゴン 対 ドラゴン
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ださい。お願いします」

 怖いくらい静かな声で、そう言ったのが聞こえた。
 風雨の雑音のなか、なぜかはっきりと聞こえた。

 彼は、紐持ちの男のほうは見ていない。雨に叩かれながら、前斜め上を見ていた。
 気のせいか、ティアにはその視線の先にある灯台が震えたように見えた。

「さっさと歩け!」

 ふたたび飛ぶ怒声。だがシドウはそれにも反応しない。

「……え?」

 ティアは声が出てしまった。
 黒く空を覆う雲と雨で薄暗いなか、彼の目が光ったように見えたからだ。
 そんなわけはないのに。
 だが、確かに感じた。彼の様子がおかしいのを。

 まさかここで変身して、この人たちを……?
 ……いや、さすがにないよね。

 一瞬よぎった不安を、ティアはすぐに打ち消した。
 これまで彼と一緒にしてきた旅を振り返ると、それはあまりにも考えにくいことだったからだ。

 彼はあまりイレギュラーなことをしようとしない。

 冒険者としての掟や慣習はたとえ罰則がないことでも破らないし、ドラゴンに変身すれば力づくで解決できることも、それは最後の手段としてできるだけ避け、人間社会の正規のやり方で向き合おうとしてきた。

 そして何かにつけて「母さんに言われているから」「師匠が言っていたから」と言い、それを守ろうとする。それこそ、バカ正直とも言えるくらいに。

 その基本に忠実であろうとする姿勢。彼が生まれ持った性格からくるものなのか、両親の教育によるものなのか、不正規な出自から来る反動なのか。それはわからない。が、今後それが変わることはない気がしていた。

 だから、きっと今回もそうだ。彼は母親に言われたことを守る。どんなにこの魔法使い軍団が下種な集団であろうとも、パーティメンバーである自分が何を言われようとも、人間の敵になることはない。そして、当初の目標、この魔法使い軍団を保護するという目的を、彼が忘れることはないだろう。
 ティアはそう信じようとした。

 信じようとしていたのに――。
 シドウの両手の紐が、千切れた。

「う、うそ……」

 服が破け、全身が膨張……したと思ったら、次の瞬間にはドラゴンの姿へと変貌していた。
 異様に速い。
 一瞬だった。その変身スピードにティアは驚いた。

 膨張したシドウの体に巻き込まれ、数名の魔法使いが突き飛ばされた。砂質の土壌にもかかわらず圧倒的な降雨でぬかるんでいる地面へ、倒れる。

 脅すだけのつもりにしては、いつもの配慮がまるで感じられなかった。その場で変身したので、右に左に前にも人間がいる。少しでも歩けば踏むだろう。
 自分のことで怒ってくれたのであれば、それはもちろん嬉しい。だがティア自身はまだ何かされたわけでもなく、されかけたわ
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