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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
想いの吐露と現実と
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音のなかには、紙袋の立てる独特の乾いた音色が混じっていた。

それらが段々と近付いてくると、すぐに彼女──アリアの姿が視認できた。紙袋を両腕に抱き抱えるようにしながら、足元に意識を傾注させて爪先立ちのように歩いている。ようやく山の麓から抜けると、アリアはそのまま勢いをつけて、もと座っていた椅子へと一気に腰を下ろした。
文に負けず劣らずの無邪気な笑顔を振り撒きながら、彼女は「ただいま」と挨拶する。


「おかえり。何だかご機嫌だけど、良いことでもあった?」
「あのね、ももまんが在庫処分セールだったの。 賞味期限切れの1日前で半額だったから、おやつ用と夕食用で……15個ね。ふふっ、かなり得しちゃった。購買の人も『ありがとう』って」
「また随分と買ったね……。まぁ、君が嬉しいのならいいや」


そうして2人で顔を見合わせて軽快に笑う。こうしている時の彼女は、一般校に居るような女子高生のようで可愛らしい。そんな思いを思考の端に覗かせながら、ひとしきり笑い終えた。
「そういえば」とアリアが思い出したように切り出す。「2人とも、何を話してたの?」
赤紫色の瞳で自分と文との顔を交互に見遣りながら、彼女は興味ありげにそう訊いてくる。


「えっと、如月くんは神崎さんのことを、どう思っているのか──っていうお話を……あっ」


そこまで言い切ったところで、文はこの返答がいかに如月彩斗にとって都合の悪いものか──ということを察し得たらしい。目を泳がせながら、慌てたように口を両手で押さえている。
同時にこの話題を露呈させられると思っていなかった、或いは彼女にこの話題を知らせたくなかった自分の緊張が、一気に最高潮に達しているのを感じていた。苦笑するのが関の山だった。

アリアはそうした文の返事を聞いて、少しだけ面食らったようにしている。そうして返事の内容を咀嚼したのか、羞恥したような拗ねたような面持ちで、決まりが悪そうに目を伏せた。
けれども、そうした平生とは異なる彼女の態度も、ほんの一刹那のことだった。やにわに「ねぇ、今って何時?」とアリアは自分に問いかけてくる。腕時計の文字盤は5時付近にあった。


「じゃあ……その、先に帰って夕食を作っておいてくれる? アタシも平賀さんに色々とお願いしたいことがあって、このままだと夕食が遅れちゃうかもしれないから……。なるべく早く帰れるようにするけど、少し時間が掛かるようなら電話するから。キンジたちにも言っておいて」


彼女は口早にそう告げると、「なんか、我儘で悪いわね」と苦笑した。そうしたアリアの仕草が平生と似つかわしくないことを理解しながらも、「別に構わないよ」と快活に背いて席を立つ。その表情の裡面に、彼女に対する緊張を隠していることが判明しないようにしながら……。

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