忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
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いつものように朝の電車に乗った総一郎は、いつものように隼人が座っている席の前に向かう。
(ん? 今日は最初からか。月曜日なのに)
電車の窓に完全に預けるかたちになっている隼人の頭。ずいぶんとわかりやすく寝ている。
彼は先週の後半から毎日途中で寝落ちしており、下車駅に着いたら総一郎が起こしていた。が、最初から寝ているパターンは初めてだ。
総一郎はポジションに入ってつり革を掴むと、観察モードに入った。
(この寝方だと顔が見えるのがいいな)
彼の無防備な寝顔が嫌いではない総一郎の表情は、自然と緩む。
このまま彼の下車駅まで鑑賞しているのも悪くない。そう思っていた。
しかしこの寝方、電車が強く揺れると頭が窓ガラスでバウンドする。ずっとそのままというわけにはいかなかったようだ。
「…………ん…………どわっ!!」
目が開き、驚く彼。
「起きたのか。おはよう。隼人君」
「お、おはよう総一郎……。悪い、寝てた」
まだ若干の気恥ずかしさはあるが、お互い名前を呼んであいさつをする。
「疲れているのならそのまま寝ているといい」
「いやー、できれば寝てたら起こしてほしいというか。いろいろもったいないし」
「ん?」
「あ、なんでもない。こっちの話」
彼が笑いながら頭をかく。
暑い季節になってきても、その短髪はサラサラしている。
「朝から眠いというのは、野球の練習の影響なのか?」
「あー、言ってなかったっけ? 追試の勉強のせい」
「初耳だぞ。しかも時期が変だな。なんのテストの追試だろう」
「中間テスト」
「中間って、一か月くらい前の話じゃないか」
「ああ、いま追試の追試でさ。あ、違った。追試の追試の追試だった」
(――!?)
追試の追試の追試。総一郎にはその意味がすぐにわからなかった。いや、言葉の意味はわかるが、いったいどういう状況なのかがピンとこなかった。
続いて聞きただすようなかたちとなる。
「赤点の基準が厳しいのか? 君の学校の『赤点』は何点未満なんだ?」
「んーっと。30点取れないと赤になる」
30点未満が赤点。それは、総一郎の学校と同じ基準だった。
「聞いていいのかわからないが、どの教科が赤点になり続けているのかな」
「恥ずかしいけど、全部! 数学Uとか本番0点だった」
困惑に拍車がかかる。
(……!? 何をどうやったらそんな事態になる?)
総一郎は、赤点はおろか、定期テストでも模試でも90点未満を一度も取ったことがない。30点未満という点数をどうやったら取れるのかがわからなかった。0点に至っては名前の書き忘れ以外にはありえないとすら思った。
だがその総一郎の混乱は、視線のピントが再度隼人に
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