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Blazerk Monster
レポート提出
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ートに出来栄えなど求めていない。敬語で文章を整えることすらしていない巡は勿論、残る二人もレポートというより作文の類である。

「……まあ、赤点というほどではないか」

 そうした考えを前提としたうえで、水仙博士は呟く。三者三様、レポートというものに対していい加減にやっているわけではないことは伺えたからだ。自分の考えを偽りなく書いていることは経験から読み取れる。気合を入れすぎてやたらめったら書くこともしていない。その辺は引率者が入れ知恵したようだ。

「あいつが人に何かを教えることなど想像もできなかったがな」
 
 涼香はレポートに対してかなり適当な方だった。基本的に一週間に一度のぎりぎりに出し、内容もひたすらあったことをごっちゃに埋めるだけの見るに堪えないものがほとんどだった。一方四葉は提出頻度こそ低かったがそれは病気のせいであったし、体の調子がいいときは一万文字程度で助手の修士や知り合いの博士が唸るほどのレポートを出してくることもあった。子供をそう簡単に褒めない水仙博士でさえ、旅が終わったら研究者になるのを勧めたことがあるほどだ。

「四葉が王者となったことでこの地方は安定し始めた。涼香もこの旅で新しいトレーナーと触れ合うことでこれからの人生を見つめ直せるかもしれん。だが、これでよかったのか……?」

 涼香がチャンピオンの地位に求めたのは弟を治す金と技術だ。チャンピオンといえどやりたい放題ではないのだが、可能な限りの権力を使って弟の病気を治そうとしただろう。それよりは王者として国をよくすることを望んだ四葉がチャンピオンになったのは大多数の人間にとっては喜ばしいことなのは違いない。
 そんなことを考えながら博士はレポートの添削を始める。字脱字の指摘及びレポートとして相応しくない部分をメールで返信することで将来必要な文章力や情報伝達能力をつけさせるのもトレーナーを管理する者の役目だ。だが、部屋に響いたインターホンの音によって中断された。博士は怪訝な顔をする。
 今日の研究は終わりもう日付もとうに変わった。研究者が用事など考えにくい。博士が一瞬答えに迷う間にも、更にインターホンの音がする。

「……お前はどこの誰だ?」

 夜には研究所全体にセキリュティがかかっていて関係者以外は入れないようになっているし、研究員の中にこんな若い少年はいない。その不吉さにも冷静を保ちつつ、ボタンを一つ押し問いかけた。

「もしもーし!四葉姉の弟で千匹の千に屠殺の屠と書いて千屠でーす!この地方を巡るにあたって、ポケモンを頂きに来ましたー!!」

 研ぎ澄まされて光を反射するむき出しの刃のように明るい声。ピンポンピンポンピンポンと品性のかけらもない呼び出し音。そして博士が答える前に──ドアは、真っ二つになった。
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