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読者に見放され
第五章

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「もう完全に」
「あいつは裏切ったよ」
「自分自身をな」
「昔の自分を裏切った」
「一番裏切ったらいけない相手を裏切った」
「あいつはそんな奴だ」
「そんな奴に成り果てちまった」
 こう言うのだった。
「もう終わったよ」
「あんな奴の言うことなんて聞く必要あるか」
「読む必要もないさ」
「そのまま何処までも腐ってろ」
「誰も御前の言うことなんか聞くか」
「自分を裏切った奴の言うことなんか聞くか」
 最も裏切ってはいけない相手を裏切った輩の言葉なぞというのだ。
「誰が読むか」
「誰が聞くものか」
「何処までも堕ちて腐ってろ」
「人間ああはなりたくないな」
 こう言ってそうしてだった、もう嫌割から目を離し彼の漫画を見向きもしなくなった。だがそれでもだった。
 嫌割はここでまだ言うのだった。
「北朝鮮に強硬手段は取るな!」
「今度はそう言うか」
「拉致はどうなるんだよ」
「というかそんなの言うか」
「核開発はスルーかよ」
「こいつ北朝鮮とつながってるだろ」
「必死に否定してるけれどな」
 自分では断じてない、と言っているがというのだ。
「それでもな」
「あいつ本当に北朝鮮と関係あるだろ」
「そうじゃないとおかしいだろ」
「強硬手段取るなとかな」
「つながってなくてもシンパじゃないと言わないぞ」
「こんなこと言う保守がいるか」
 誰もがこう言った。
「反原発、批判するのは保守系の学者ばかり」
「周りにいるのはもうサヨクばかり」
「サヨクの政治家ばかり持ち上げてな」
「格差社会とかも言ったしな」
「完全に左に行ったな」
「極左にな」
「極右から極左にいっただけか」
 それが嫌割だというのだ。
「そうした意味で変わってないな」
「最初からそんな奴なんだな」
「それだけのことか」
「もうこいつの言うことは無視していい」
「漫画読むどころじゃない」
「一切考えなくていい」
「本当にそんな奴だったんだな」
 もうかつての読者、子供の頃から嫌割の本を読んでいる者も誰も彼に見向きもしなくなった。彼の末路についても。もう誰も見向きもしなくなってしまっていた。
 それでだ、ある日嫌割が死んだと聞いても彼等はこう言うだけだった。
「ああ、死んだか」
「えっと、破産して支持していた政党も解党してか」
「北朝鮮やら怪しい市民団体との関係もばれてか」
「公安にもマークされて」
「それで逮捕もされたんだな」
「それで最後は孤独死か」
「成程な」
 その末路を棒読みして終わりだった、そこに感じるものは何もなかった。そして次の瞬間には彼等は自分達がしたいことに向かっていた。


読者に見放され   完


                2018・11・17
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