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最後の恋
第一章

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               最期の恋
 お市の方は浅井家の主である浅井長政に嫁いでいた。
 だが運命は時として非常に残酷なものだ、長政は市の兄である織田信長と敵対することになりその結果攻め滅ぼされてしまった。
 市は夫と共に死ぬつもりだったがその夫に説得され三人の娘達を連れて兄である信長の下に戻った。
 信長は妹と彼女の娘達を快く迎えた、だが夫のことを忘れられない市は信長に対してこう言った。
「出来ればもう二度と」
「そう言うか」
「はい、もうあの様な思いはしたくありません」
 その整った、この世のものとは思われぬ美貌の顔で語った。
「ですから」
「わかった、では娘達と静かに暮らすがいい」 
 信長も強くは言わなかった、そしてだった。
 市に縁談の話は言わず娘達と静かに暮らさせた。そのうえで重臣の一人である村井貞勝に対して言った。
「わしは浅井家とは戦うつもりはなかった」
「だからこそですな」
「あ奴を嫁にやった」
 市、彼女をというのだ。
「あれはわしとは違い大人しくな」
「非常にお優しい方です」
「そうじゃ、だから幸せになって欲しくてな」 
 そう思ってというのだ。
「浅井家にやった、浅井家は徳川家と同じくな」
「織田家の天下布武に大きな働きをしてくれるとですな」
「期待しておった。まさか猿夜叉がな」
 浅井長政、彼がというのだ。
「父親の朝倉家との古い付き合いに頷くしかなかったとはな」
「殿もですな」
「思わなかった、だから最後まで猿夜叉に降る様に言ったが」
 浅井家の本拠地であり長政の居城である小谷城を攻めた時にだ。
「結局な」
「浅井殿は従わず」
「そして滅ぼすしかなかった」
「そのうえでお市様は」
「うむ、あの様にじゃ」
「戻って来られましたが」
「夫婦仲は非常によかったと聞いておる」 
 長政と市のそれはというのだ。
「だからそれだけにな」
「今のお市様の落胆は」
「かなりじゃ、だからもう二度とな」
「ご結婚はですね」
「せぬと言っておる」
 その様にというのだ。
「そしてわしもな」
「お市様のそのお言葉を」
「聞かぬ訳にはいかぬ」 
 妹の顔立ちも素晴らしいが兄のそれもかなりだ、信長はその流麗と言っていいと通った顔立ちを曇らせて村井に話した。
「だからな」
「もうこれよりは」
「あ奴の望む様にさせる」
「そうされますか」
「好きな様に刺せる、元々我儘を言う者ではない」
 だからこそというのだ。
「娘達とな」
「穏やかに過ごしてもらいますか」
「その様にさせる」
 こう言ってだ、信長は市に縁談他の大名や家臣達とのそれの話は二度と出さずそのうえで彼女に好きにさせた。だが。
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