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孤独な女人
第五章
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 そのうえで岡田にだ、二人で言った。
「我等はもうこれでだ」
「帰らせてもらうが」
「何というかな」
「寂しいものであるな」
「はい、あの方にあるのはです」
 岡田も二人にこう答えた。
「寂寥や無常といった」
「そうした考えだな」
「そうしたものがあるだけだな」
「あまりにも一本気過ぎたのです」
 若江薫子、彼女はというのだ。
「尊皇はともかく攘夷を何処までも求められ」
「そうしてだな」
「あの様に至ったのだな」
「一本気はよいこと、ですがそれが過ぎれば」
 それならばというのだ。
「あの様に苦労されると思うと」
「残念なことだな」
「全く以て」
「そうです、ですが私は恩義を受けたので」
 それ故にというのだ。
「このまま最期までです」
「看取るか」
「そのつもりか」
「そうさせて頂きます」
 岡田は二人に静かな声で答えた、そうしてだった。
 二人は岡田にも別れを告げてそのうえで東京への帰路についた、東京まで船で戻るがその途中でだった。
 斎藤は船の甲板から海を見つつ共にいる梅田に言った。
「どうにも」
「今の状況はわかったがな」
「寂しいですね」
 こう言うのだった。
「どうにも」
「そうだな、皇后様もお話を聞かれるとな」
「どう思われるでしょうか」
「同じことを思われるかもな」
 梅田はどうにもという顔で斎藤に答えた。
「我々とな」
「そうなられますか」
「そうかもな、学問があり」
「そして気質もあっても」
「あまりにも一本気が過ぎたあまりにな」
 若江はその気質故にというのだ。
「ああなるのならな」
「一本気に過ぎるのもですね」
「そのあまり世が見えなくなれば」
 それでというのだ。
「不幸になるのなら」
「寂しく悲しいものだな」
「まことにですね」
「学問があり直言も憚らぬ心に人を教える才」
「全てあっても」
「それでも幸せになれない」
「人はわからぬものですね」
「全くだ」
 一本気も美点だがそれが過ぎてしかも世が見えていない、それならばというのだ。
 二人は若江のことを思い嘆くばかりだった、そうして東京に帰ると彼女のことを報告し警官の仕事に戻った。それから暫くして若江がこの世を去ったことを聞いた。後に皇后陛下が女子高等師範学校を視察された際に金一封を下賜されたがその金で師範学校は若江の書を印刷した。また昭和になって正五位の官位も与えられた。若江はもう忘れられたいと思っていたがそれでもだった、皇后陛下も他の彼女を知る人達は忘れておられなかったということか。また梅田と斎藤も若江の書を二人で読んでだ。こんなことを言った。
「いい書だな」
「全くです」
 その出来を正しく評価した、孤独な晩年を送ったが彼女を知る者は覚えていて見ている者は
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