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fate/vacant zero
第二部
風の驚詩曲
乳姉妹の憂鬱
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 ルイズは、夢を見ていた。


 昔の、六歳ぐらいの頃の夢である。

 舞台は、魔法学院からだいたい馬車で丸二日ほど行ったところ、生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある実家の屋敷だ。

 夢の中の幼いルイズは、屋敷の中庭を駆け回っていた。


 後ろにはかなりの数の召使いを従えている。

 というか、双方ともかなり必死な表情をしている辺りを見るに、どうやらルイズは逃げ回っているようだった。


 空に浮かぶ朱い満月に照らされた、迷宮のような植え込みの内に飛び込み、その追っ手たちをやり過ごす。

 追っ手の足音に混じり、声が聞こえる。



「ルイズ。ルイズ、何処へ行ったの?
 ルイズ! まだ、お説教は終わっていませんよ!」



 それは紛れもなく母の声だった。


 夢の中でルイズは、デキのいい姉たちと魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていたのであった

 隠れた植え込みの下から、すぐ側を通り過ぎていく靴が四足見えた。


「まったく、ルイズお嬢さまは難儀なこったね」



 それは、己の召喚した使い魔の声だ。


 この時期には居るはずがないのだが、そこはそれ。

 さすが夢である、といったところか、ルイズはその存在に疑問を抱かず、すんなりと受け止める。



「そうだなぁ。上の二人のお嬢さまは、あんなに魔法がお出来になるって言うのに。
 使い魔のきみだって、それなりには使えるんだろ?」


「まあな。俺がそろそろ『トライアングル』になるってのに、お嬢さまはなんでああ……」



 ルイズは哀しくて、悔しくて、歯噛みをしながらそれを聞いていた。

 本当に、なぜ自分は魔法が使えないのかと、ルイズは自分で自分を責めていく。


 どんどん、惨みじめな気持ちになっていく。


 やがてがさごそと音がして、その使い魔と召使いが植え込みの中を捜しはじめたのに気付いたルイズはそこから逃げ出し、彼女自身は『秘密の場所』と呼んでいる、中庭の池へと向かった。





 そこは。

 あまり人の寄りつかないうらぶれた中庭は、ルイズがこの屋敷の中で唯一安心できる場所であった。


 池の周りには季節の花々が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチが置かれている。


 池の中ほどにはぽつりと小さな島があり、白い石で造られた東屋あずまやがちょこんと建っていた。



 そして、そんな池のほとりにルイズの目指す場所は浮いていた。



 家族で舟遊びを楽しむための、一艘の小船ボートだ。


 だった、と言うべきかもしれない。

 今ではもう、家族がこの池で舟遊びを楽しむことは
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