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fate/vacant zero
第一部
外よりの 序 曲
厄日の使い魔
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深夜。


 背に乗せた主人の住処すみかを目指す幼いドラゴンが一頭、見知らぬ土地の遥か高空を舞っていた。


 そのさらに高みには、夕焼けみたいに紅く染まった十六夜いざよいの月。

 そしてその月に並んで浮かぶ、氷のように透き通った少し欠け気味の蒼い月がある。


 眼下では点在する森と、広大な草原と、主人の住処すみかが、ラベンダー色になった月明かりに照らされ浮かび上がっている。

 そんな光景は、雪と山ばかり見ていた幼竜の好奇心を甚いたく刺激するらしく、その飛行軌跡は落ち着かない。


 あっちへばさばさ、こっちへばさばさ。

 上機嫌に鳴きながら"住処すみか"へと近づいていく幼竜。

 その尋常ならざる視覚が主人の部屋の窓を視認できる距離に至った時。


 "彼女"は"住処"の天辺に、微かな動きを捉えた。









 その動きの元において。

 外開きの木造の扉が、ぎぃと軋んだ音を立て、吹きつけてくる力と押し合いながらも、ゆっくりと開いていく。


「う……、風強いな、ここ」


 低くも高くもない青年の声が、扉の奥から聞こえた。

 ほどなくして、黒髪の青年が一人。扉の外――学生寮塔の屋上へと姿を見せた。


 やや高めの背丈をした身体は、この世界では見慣れぬ生地の紺と白のパーカーと、黒いスラックスに覆われている。

 その顔は、怒りと困惑と疲労とを混ぜて小一時間ほど煮込んだような表情。


 何があったかはまだ分からないが、そんな彼は後ろ手にドアを閉めた後、空を呆然として見上げていた。



「赤と青の月、か。こんなもんを、見ることが出来るなんてなあ。考えもしなかった」



 そう一人ごちた青年は、出てきた扉の横に腰を下ろす。


 見慣れぬらしい二つの月を映す彼の目は、どこか寂しげな墨色をしていた。





 好奇心に殺された猫。

 それが黒髪と墨色の目をもつ青年、才人さいとの現状であった。









Fate/vacant Zero

第一章 厄日の使い魔















 平賀才人ひらがさいと。17歳、高校2年生。


 運動神経は普通。興味があることには打ち込むタイプだが、成績は並の並。

 彼女いない暦=実年齢。賞罰はとりあえず皆勤賞のみ。


 担任教師曰く、『負けず嫌いで、義理堅くて、好奇心旺盛で。時々うっかりするのさえ無ければいい奴なんだが』。

 母親曰く、『もうちょっと先のことも考えなさい。そんなとこばっかりお父さんに似なくていいから』。

 ま
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