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結婚して
第一章

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                結婚して
 ロッテオリオンズの主砲であり三年連続首位打者それに一度三冠王を獲得している落合博満が結婚した、このこと自体は誰も驚かなかった。
「あの人もいい歳だしな」
「三十代だからな」
「大学中退してノンプロでな」
「プロ入り遅かったしな」
「結婚してもいい歳だな」
「むしろ遅い位だな」
 それこそというのだ。
「だから結婚自体はな」
「不思議じゃないな」
「そうだよな」
「それ自体は」
「ただな」
 ここで言われることがあった。
「まさかな」
「九歳も年上の人と結婚とかな」
「それはないよな」
「あの人っぽくないよな」
「そんな感じがするよな」
「どうもな」
「けれどな」
 それでもだったのだ。
「結婚するからな」
「実際にな」
「凄い結婚だな」
「正直驚いたな」
「全くだ」 
 彼が九歳も年上の女性と結婚したことに驚いていたのだ、だが落合自身はこう言うのだった。
「こういう結婚があってもいいだろ」
「女の人が九歳も年上でもですね」
「それでもですね」
「ああ、だからな」
 それでと言うのだった。
「これからの俺と女房も観てくれよ」
「これからですか」
「落合さんとですね」
「奥さんもですね」
「今年はタイトル獲得出来なかったしな」
 このことは自分で言った、一九八四年の落合は実際にタイトルを獲得しておらず首位打者獲得も三年連続で止まった。
「だからな」
「来年は、ですか」
「今年の雪辱を晴らしますか」
「そうしたいな、相手がいることだけれどな」
 それでもとだ、落合は笑って言うのだった。
「やっていくな」
「そうですか」
「これからは奥さんとお二人で、ですね」
「野球をしていきますか」
「そうなるな」
 落合は屈託のない笑顔で答えた、平たい感じの顔にはそうした笑顔がよく似合った。かくして彼は夫婦生活をはじめたが。
 結婚してすぐにだ、その妻にこう言われた。
「あなた太ってみたら?」
「えっ、太るのか」
「そう、太ってみたらいいんじゃない?」
 妻は落合に真顔で提案した。
「野球の為に」
「おい、太ったらな」
 それこそとだ、落合は妻にすぐに言い返した。
「身体の動きがな」
「悪くなるっていうのね」
「スポーツ選手だからな」
「そうよね、けれどね」
 妻は自分の言葉にスポーツ選手としての常識から反論する夫に対して述べた。その顔は真剣なままである。
「パリーグの打つ人達って太ってる人多いでしょ」
「門田さんか?」
 落合はすぐに南海の主砲であった彼を思い出した。
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