暁 〜小説投稿サイト〜
【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
流氷の微睡み4
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 
 事件から2日後、聖観学園にはやっと日常らしいものが戻ってきていた。

 静かな廊下を歩くリックとルーシャの足音だけが響き渡る。ホームルーム前に廊下ではしゃぐ不真面目な学生はここにはいない。まして特組は人数も少ないし校舎の場所も少し特殊だ。

 と――前方に世話の焼ける二人の生徒が教室にも入らず待っていた。

 古芥子美杏と古芥子美音、双子の姉妹。
 リックとルーシャの生徒であり、2日前の事件で助けに入るまで時間がかかってしまった子供たち。美音は普段のへらへらした薄い笑みが剥ぎ取られ、警戒半分臆病半分といった顔でこちらを睨む。その背中を美杏が優しく撫でて後押ししているようだった。

 やがて、美音が前に出て上目遣いにこちらを睨みつける。

「どうした」
「……美音、大人なんて嫌い」

 拒絶。事件の時も大人を否定する言葉を言っていたが、成程、と思う。

「猫被りもいい加減疲れたか」
「そうやって分かった風な事言うのが嫌い。都合が悪いと煙に巻くのも、社会のルールを子供より一杯知ってるからってそれを自慢するように行動や心を否定するのも、勝手に話進めるのも、勝手に捨てるのも、人の為だと言って強情になる自分に酔ってる所も、嫌い。全部嫌い」

 やっと素直になったな、とリックは思う。
 最初からだ。それこそ入学する前、顔を合わせる前から既に美音は大人嫌いだったのだろう。美杏はそこに寛容な姿勢だけ見せることは出来るが、心の底では美音に同意しているだろうと予想する。その強烈な不信感の理由は、そのまま家庭の問題に直結している訳だ。

 彼女の両親は、双子がOI能力に覚醒した時点で二人の保護者としての責任を放り出した。
 髪の色が変わって気味が悪い。OWだかなんだか知らないが訳の分からないことばかり言う。それが世間体の悪さか、理想とする家庭や子供の在り方との乖離か、とにかく当人たちにとって耐えがたい「何か」を生んだのだろう。

 彼女たちは親に、大人に捨てられ、そして拾われた。
 拾われた先で何があったのか、リックは把握していない。ただ、親への不信感から大人への不信感に思想がシフトしている事は感じていた。もしもこの世界に双子以外のOI能力者がいなかったら、この子たちは子供だけの王国でも作ろうとしていたかもしれない。

 リックには分かっていた。二人がリックとルーシャに見せる態度や笑顔は全て飾り付けたものであることを。それを指摘することは簡単だったが、上から押さえつける指導は二人のような生徒には逆効果でしかない。ずっと彼女たちが本音を言う時を待っていた。

「大人はいつだって身勝手で、子供が本当に辛い時や怖い時、困ってる時に何もしてくれない」
「そうかもな。俺も大人だ、大人の悪いところは山ほど知っている。だから
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ